いつまでも美しく:インド・ムンバイのスラムに生きる人びと

キャサリン・ブー著 早川書房(368.2/B)

インドの経済は今や中国に次いで発展が著しい。その玄関口のひとつといえるムンバイの国際空港周辺には近未来のような高層ビルが立ち並ぶ。しかしそのすぐそばには3000人がひしめき合って暮らすスラムがあり、本書の登場人物たちもそこの住人である。すさまじい貧困と格差の中で懸命に生きる人々を3年間にわたる綿密な取材に基づいて描いたノンフィクションでありながら取材する著者の姿を感じさせず、小説を読んでいると錯覚してしまうほどである。(M)

 

女子大生のゲンパツ勉強会

神戸女学院大学石川康宏ゼミナール著 新日本出版社(543.5/K)

みんなと同じ女子大生。みんなと同じように原発に関心がなかった彼女たちが福島第一原発の事故のあとゼミで勉強を始めた。福島からは離れているが、神戸は原発密集地の福井県に近い。学生たちは本を読んだり映像を見たりする一方、若狭へも行き、原発反対派だけでなく原発PR館でも話を聞いた。最終章ではこうして学んできた結果を語り合っている。同年代の学生たちが何を考え、どのように行動したのか、ぜひ読んでほしい。学生たちが選んだおすすめ本のリストも載っている。(M)

 

漱石のパリ日記 : ベル・エポックの一週間

山本順二著 彩流社(910.26/N58)

漱石は、明治期の1900年から1902年まで、給費留学生としてロンドンで学んでいる。漱石とロンドンに関する研究書は割と見かけるが、往路に一週間ほど滞在したというパリの漱石について書かれた本は珍しいのではないか。時はベル・エポック華やかなりしパリ。漱石はそこで何を見、何を感じたのか。漱石ファンにとっても、当時のフランスに興味のある向きにとっても、「一冊で2度おいしい」本である。(Y)

 

原発大国とモナリザ : フランスのエネルギー戦略

竹原あき子著 緑風出版(501.6/T)

書名のつけかたがなかなか上手い。一見何の関係もなさそうな「モナリザ」と「原発」に、人は「おやっ?」と思うだろう。そのわけは-詳しくは本書を読んで頂くとして、世界有数の原発大国フランスでは、他国にもせっせと原発を売り込みながら、再生可能エネルギーの道も模索している。原発を巡って、様々な問題を抱える我が国にとっても参考となる一冊。(Y)

 

OL誕生物語:タイピストたちの憂愁

原克著 講談社(366.3/H)

OLの起源は意外に新しい。といっても1920から30年代といえば、今から90年近く前のことであり、それまでもっぱら、家庭の中の仕事に従事していた女性達が全く異なる都市の空間に移動して働く(通勤する)ということ自体真新しい体験だったのだ。タイピスト、電話交換手、デパートガール、などの名の付いた職業そして、「職場の花」。今までにない労働環境、社会環境の中で役割を課せられた彼女たちの悩み、悲しみそしてまたささやかな矜持とは?(A)

 

ぼくは高尾山の森林保護員

宮入芳雄著 こぶし書房(653.2/M)

著者は広告業界のカメラマンという職をなげうって(?)高尾山の森林保護職員となった。森林保護職員とは山の森林保護、安全管理などのために山中をパトロールする国の定めた重要な業務。自然相手の事、不測の事態も、色々な苦労もあろうし、誰でもできる仕事ではないに違いないけれど、プロの腕で切り取られたみずみずしい写真と文に導かれ、高尾の様々な姿と仕事の魅力を知るうちに、少し著者がうらやましくなってくるのも事実だ。(A)