公正さとは~LGBTから考える人にやさしい社会について

2016年07月04日

6月30日の昼休みに、2016年度「社会・人文学会」総会と記念講演会が開かれました。
講演会の講師は、国際交流NGOピースボート職員の室井舞花さん。
講演タイトルは「多様な性から考える"人にやさしい社会"とは」でした。

室井さんはセクシャルマイノリティ(LGBT)の日常を映した写真展「Love is Colorful」の主宰をはじめとして、LGBT当事者の視点からの発信を多数のメディアでなさっていて、近著に『恋の相手は女の子』(岩波ジュニア新書)もあります。

この日は、まずご自身の幼い頃のことから、19歳で同性愛当事者としてカミング・アウトするまでの様々な心の揺れや惑い、苦しみから話を始められました。

室井さんは子ども時代、とても活発でボーイッシュなお子さんだったようです。
マイク片手に話をなさっている横顔からも、颯爽と生き生きと飛び回る子ども時代が彷彿とさせられます。その室井さんがたまにスカートをはいたり、お祭りで女の子の浴衣を着たりすると、みんなに笑われたりからかわれたりしたとか。"目の前の友だちと同じことをしているだけなのに、なぜ自分だけ笑われなければいけないのか?人は何を基準に女とか男とかを判断するのだろう?"という子ども時代の素朴な疑問は、中学生になって同級生の女子を好きになった時、自分の胸の内の思いは絶対に人に知られてはいけないという緊張感へと展開していったと言います。
当時はテレビのバラエティ番組等でも「レズ」や「ゲイ」の人を嘲ったり差別したりするのが一般的でした。そうした当時の風潮の中に身を置いて、室井さんは高校を卒業した後の自身の進路については見通しを立てられても、人としての幸せな将来は描けなかったと言います。"自分はみんなと一緒に生きたい。でも普通には生きられないのだ"という思いにとらわれていたというお話に、どんなにつらい青春の日々だったかが思われました。

そんな緊張感から解き放たれたのが、19歳の時にピースボートで3カ月間の南半球の旅に参加した時。同年齢の女性がレズビアンであることを400人近い聴衆の前でカミング・アウトする場面に居合わせて、「あ、私も普通に生きられる。生きていいんだ」と思ったそうです。

その日から室井さんのカミング・アウトが始まりますが、彼女はすぐに人に話したのではありません。まず自分自身に対してのカミング・アウトをしたと言います。自分に向かって、自分のあるがままを認めさせることから始めたという言葉に、彼女が受けてきた呪縛がどれほどきついものであったかが想像されます。

室井さんの講演はLGBTとしてのご自身のカミング・アウトのお話から、社会的な「公正」とは何かへと展開していきました。

LGBTをはじめとしてマイノリティの方々への権利擁護は、とかく「特定の少数者を特別に優遇することではないか」と誤解されがちです。しかし、"そうではない。私たちは皆、一人ひとり違いを持って生まれてきている。性自認や性的志向の問題だけでなく、能力や身体や行動等のさまざまな面で、だれもがマイノリティとしての要素を持ち、それを胸の内に抱えながら生きているのだ"と室井さんは言います。

"だれもが持っている特徴や個性が、仮に皆と一緒に生きるうえで不利につながるものであるとしたら、それが不利にならないよう保障しあえる社会でなくてはならない。
人としてのスタート地点を同一にし、自分らしく生きられることが「公正」に守られる社会であって初めて、誰もが幸せに生きられる社会である"ということを深く熱く語って下さいました。

人は生きていく過程で、知らず知らずのうちに、自分と異なるものへの偏見や差別意識を拾い集めてしまいがちです。そうした周囲の偏見と差別意識に苦しみ続けた室井さんを19年間の呪縛から解放し、自分らしく生きる道へといざなってくれたのが、さまざまなバックグランドを持った人々が直接出会うピースボートの船旅でした。

この講演会を主催した「社会・人文学会」は、文化と社会にかかわる現象を総合的に研究することを目的として、本学教員や学生・院生・卒業生等が一緒になって作っている会です。この日は一年間の活動のまとめとしての総会でしたが、その記念講演に室井さんをお招きすることは学生たちの希望で実現したと聞いています。

恵泉女学園大学は開学当初から、学生たちが欧米だけでなくアジア各地にも赴いて、貧困・差別、森林破壊など世界で起きている深刻な問題を考え、文化遺産を通してみる歴史などを現地で体験することに力を注いでいます。こうしたフィールドスタディを通して学生たちが培った「違いを認めあい、互いに支えあう」気持ちが、今回のこの講演会企画へとつながったようにも思われます。 

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