沢知恵さんのコンサートを聴いて

2017年07月03日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

梅雨の合間の、さわやかに晴れた土曜日(6月24日)の午後、経堂キャンパスで「恵泉フェロシップ*」主催のチャリティコンサート『沢知恵ピアノの弾き語り』が開かれました(*「恵泉フェロシップ」については最後の部分をお読みください)。

沢知恵さんのプロフィール
『1971年生まれ。日本、韓国、アメリカで育ち、3歳からピアノを弾く。東京芸術大学楽理科在学中にデビュー。第40回日本レコード大賞アジア音楽賞受賞。「日本語をもっとも美しくうたう歌手」と評され、圧倒的迫力のパフォーマンスで、世代をこえて支持されている』(コンサートのチラシから)。

漆黒の闇の中に響き渡った『アメイジング・グレイス』

収容人員800名あまりのフェロシップホールのこの日の壇上は、黒のカーテンに黒のグランドピアノ。壇上を飾る恵泉園芸センターの花も、この日はいつもとは打って変わって控え目。それでもそれが唯一の色採りとなった会場(写真)は、開演と共にライトが落とされて漆黒の世界に。ようやく闇に慣れた目が中央に佇む人の白いブラウスをおぼろげに捉えた瞬間、魂を揺さぶられるような歌声が響き渡りました。『アメイジング・グレイス』。聴き慣れたはずの曲が、一瞬、何の曲?と思うほど・・・。初めて聴く響きのように心に沁み渡りました。

「女のいいうた いろいろ」と題して、茨木のりこ・金子みすゞ・永瀬清子・塔和子らの詩に曲をつけて次々と弾き語りが展開されていきましたが、沢さんのピアノと声を通して語られる言葉は、ただ美しいだけではありませんでした。むしろ言葉とはこれほどまでに力強いものだったのかと、身動きもできないほどの思いに幾度も捕らわれました。身近な人を慈しみ、日々のささやかな営みを愛おしみ、それゆえに平和を願い、それが覆されることへの危機感を切実に訴える女性たちの愛と怒りが込められた強さ、まさに女性の魂の叫びでした。

沢さんのお父様(沢正彦氏)は戦後、日本で最初に韓国に渡った留学生。そこで出会った女性に一目ぼれして猛烈なプロポーズの末に結婚した韓国の女性がお母様。当時はさもありなんと思いますが、相手が日本人ということで結婚をためらう彼女に「私を日本人としてではなく、一人の人間として見てほしい」というのがお父様のプロポーズだったそうです。

沢さんの母方のお祖父様は金素雲氏・お祖母様は金韓林氏。金素雲さんと言えば、『朝鮮童謡選』『朝鮮民謡選』『朝鮮詩集』(岩波文庫)で日本でもよく知られた文学者で、韓国で文化勲章を受章された方です。またお祖母様は政治犯の家族を支援して、韓国で「民主化の母」と慕われた方です。沢さんの言葉の力・語りの力の根底にあるものが、うかがえます。

歌の合間のトークも素敵

"やってきました恵泉!恵泉だいすき!!"との歌と共に河井道先生のことや1929年の恵泉女学園創立から今日までの道のりも語ってくださいました。外部の方がこれほど的確に恵泉に託した河井先生の心を汲んで下さるのかとの思いで聞き入りました。戦争をはさんでキリスト教が迫害されたとき、河井先生が"知恵を働かせ、ユーモアをもって、何より人としての誠をもって時代に抗し、礼拝を守り通された。そして、恵泉は今に続いているのですね"とおっしゃった沢さんの言葉を私は胸に深く刻みたいと思いました。

仕合せな一日でした

『アメイジング・グレイス』に始まったコンサートの最後は、アンコールに応えて、讃美歌312番『いつくしみ深き 友なるイエス』を会場の皆で合唱して幕となりました。

"逢うべき糸に出逢えることを 人は仕合せと呼びます"(中島みゆき)
仕合せとは人と人との出会い、めぐり逢いのことを意味する言葉です。
沢さんがうたってくださった中島みゆきの言葉通り、仕合せの有り難さを思った一日でした。

コンサートの後で求めたCDにサインをしてくださった沢さんと一緒の写真をここに添えさせていただきます。

*恵泉フェロシップとは

『恵泉女学園は、特定のキリスト教教派の援助で創設、維持されるミッションスクールと異なり、開校当初から、河井の人格、信仰、教育観を理解し、共鳴する人々の精神的、経済的支援によって運営を続けてまいりました。当初、河井の学校づくりにかける深い思いを知ったかつての教え子たちが、「小さき弟子の群れ」という会を作って、恩師の学校開設のために献金をし続けました。学園開校後、それは維持会という組織となり、さらにその趣旨が引き継がれて、2003年、後援会組織「恵泉フェロシップ」が発足しました。今回、沢知恵さんをお迎えしてコンサートを開催いたしますのは、学園や近隣の皆様にこの後援会組織「恵泉フェロシップ」を知っていただくためにほかなりません。どうぞ恵泉の教育をご理解いただき、「恵泉フェロシップ」会員として「支援の輪」に加わってくださるよう、せつにお願い申し上げます。

(恵泉フェロシップ会長 恵泉女学園理事長 宗雪雅幸)より抜粋