女性活躍幻想を問う~"ワンオペ育児"から考える~

2017年06月26日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

先日(6月16日)、多摩市関戸公民館「地球大学院」でお話をする機会をいただきました。演題は「真の女性活躍とは~"ワンオペ育児"から考える日本社会の課題」でした。

男性たちからも、女性たちはもっと活躍して!という声が

演題からして女性、とくに子育て中の女性が多いのかと想像して会場に行きましたが、予想に反して参加者の大半は中高年世代、しかも、男性が多数でした。開催時間が夜の6時45分からという時間帯でしたので、子育て世代は出にくかったのかもしれません。主催者の方が撮ってくださった写真です。やや暗くて見づらいとは思いますが、会場の雰囲気の一端をご覧いただければと思います。

私がこの講座で参加者の方と共有したかったこと、それは女性活躍促進が各方面で言われているけれど、その実態はどのようになっているのかをしっかり見つめることでした。

冒頭、「日本社会の女性の活躍について、どのようにお考えですか?」と会場に投げかけてみました。「もっと、どんどん活躍してほしい」という声がかえってきました。
「家の中では、これ以上活躍してくれなくても、いいけれど・・・」とユーモラスな声もあって、なかなか素敵な男性たちでしたが、もっと活躍を!という声が出るということからも、女性たちの活躍が必ずしも実感されていないということなのだと思います。

昨年、開催された世界経済フォーラムで発表されたジェンダーギャップ指数(各国における男女格差を測る指数 「経済」・「教育」・「政治」・「健康」の4分野のデータ)でも、日本は世界144カ国の中で111位という低い位置づけでした。その内訳をみると、「健康」(40位)、「教育」(76位)に比べて、経済参画(118位)や政治参画(103位)の遅れが目立っています。

女性が活躍したいと思うと、罰ゲームのような扱いが?

以前、ある会合で発言した一人の女性の言葉が忘れられません。
「私は幸せになりたかった。だから学生時代は一所懸命に学び、就活にも励みました。幸せになりたくて、結婚して、子どもも産みました。でも、その結果、私の今の生活はまるで罰ゲームを受けているみたい。女性が結婚生活も子育ても仕事も...と願うことは、してはいけないことだと言われているみたいです」。

"ワンオペ育児"から母性愛神話・三歳児神話を考える

日本の女性たちにもっと活躍してほしいと言ってくれた会場の参加者たちに、私は最近、話題となっている"ワンオペ育児"のCMを見ていただくところから話を始めました 。"ワンオペ育児"と言っても、中高年世代、特に男性たちはこの言葉自体をご存知ないようでした。

「外食産業などで店員が深夜に及ぶまですべて一人で切り盛りすることを"ワンオペ"と言って、昨年社会問題となりましたが、子育てに明け暮れる女性たちの日常もまさに、"ワンオペ"だと母親たちが訴えているのです」という説明を添えて見ていただいたCMは、乳幼児の世話に明け暮れる母親の日常をそのまま切り取ったものでした。

最後に「この思い出がいつか宝物になる」というテロップが出て、それが母親一人が育児に奮闘することを称賛しているかのようなだと批判がネット上で殺到したのです。こうした批判は、確かにもっともです。「ママ一人に育児をさせないで!パパも地域の方も、皆で子育てを!!」というテロップにしてほしかったと思います。

ただ、"ワンオペ育児"はけっして最近起こった現象ではありません。育児不安や育児ストレスに悩む母親たちから、「年中無休、24時間営業のコンビニを一人で切り盛りしているみたい」と訴えられたのは今から40年近く前です。当時はなかった子育て支援が各地に動き始めている今日なのに、いまだにこのようなことが言われるのはなぜなのでしょうか?

「女性は母となることがもっとも幸せなこと。子を産む女性には生来的に育児の適性、すなわち母性本能が備わっている。だから幼少期は母親が育児に専念すべきだ」と言う考え方が、いまだに人々の心の奥底に巣食ってはいないでしょうか?女性活躍推進を高らかにうたいながら、他方で、母となった女性が育児以外のこともしたいと願うと、あたかも罰ゲームのような扱いをまかり通す社会通念。これを私は母性愛神話・三歳児神話と呼んで、そこからいかに解放されるべきかを検討することをライフワークとしてきました。

母性愛神話や三歳児神話が強調された歴史的経緯を振り返ると、そこにはその時々の政治的経済的要請があることが明らかです。人々の暮らしに政治的経済的要請が影響することは、古今東西を問わない世の必然です。でも、こと女性に関しては、あまりにも操作がなされ過ぎてきたこと、しかも政治的・経済的要請を自覚することなく、母性愛という名のもとに情緒的に操作されてきたことをしっかり見つめたいと思います。さらに言うと、そこに心理学や精神医学の知見が巧みに使われてきてしまったことは、研究者としてひときわ忸怩(じくじ)たる思いです(詳細は拙著『増補 母性愛神話の罠』〈日本評論社・2015年〉をご参照いただければ幸いです)。

「これまで考えたこともなかった」「あまりにも知らなかったことが多いということを知った」等々のお声を人生経験豊かな会場の参加者からいただけたことは、感謝の思いでした。

女性活躍の必要性が言われ始めた今だからこそ、本当の意味でのびやかに活躍してほしい、女子大で女子教育に携わっている者の心からの願いです。

恵泉女学園大学では7月17日(月)に第2回、国際シンポジウム「女性の生涯就業力と女子大学の新しい役割 PART2~梨花×恵泉 女性の生き方」を開催いたします。昨秋開催した国際シンポジウムの第2弾です。
皆様、どうぞ奮ってご参加ください。