夏休み中のメディア登壇から2題
2025年09月15日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
多摩キャンパスでは、今秋の木曜日(9月18日)に9月卒業式と日本語教員養成課程修了式が執り行われ、9月22日(月)から秋学期がスタートする予定です。
本日は、この夏に私がメディアに登壇した中から2つのことについて、書かせていただきます。
まず1つは、熊本日日新聞社の「くまにち 論壇」での論考です。
本論壇への執筆は2回目で、初回は「政治が介入した子育て論」として7月28日の本ブログでご報告いたしました。
第2回目の今回のタイトルは、「自信を失った子育て世代」です。
長年、子育てに悩み戸惑う親の声を聴いてきましたが、最近の子育て世代の声の中に、ふと疑問に思うことがあります。それは育児への自信喪失から自己嫌悪に陥って悩む声が増えていることです。
初めて尽くしの子育て、しかも、きょうだい数が少なく、幼い子の世話に不慣れな環境で育った人たちが、今、親になっています。子育てに右往左往したとしても、自然なことではないかと思います。ただ、私が気になるのは、そうして自信を失う自分が許せない・認めがたいと思い詰める声が増えているのです。
子育ての悩みやつらさが子育ての問題にとどまらず、むしろ、自己否定・自己嫌悪の様相を色濃くしている背景に、いったいなにがあるのでしょうか。たとえば、効率性や費用対効果を重視する風潮の中で、「きちんと・早く・間違いなく」をモットーにした教育がなされ、失敗を認めない空気が社会に蔓延してきた弊害かもしれません。
急速に進む少子化に直面して、子育て支援が喫緊課題として注力されています。親の子育て負担を軽減し、子育ての喜びを享受できるための支援のいっそうの推進が必要なことは言うまでもありません。しかし、現状の子育て支援だけでは解決しない闇もまた、今私たちは抱えているのではないか、失敗やあやまちに、しなやかに、強(したた)かに向き合う力、そのために自分が抱いた疑問を大切にして、考え抜く力の育成もまた、子育て支援の新たな課題であるように思うことを記した論考です。
熊本日日新聞社のご理解をいただいて、「くまにち 論壇」(2025,8,31)をここに転載いたしますので、ご覧いただければ幸いです。
そして、もう1つは、NHKの子ども科学電話相談に出演した時のことです。 子ども科学電話相談 - NHK
この番組は「恐竜」「昆虫」「鳥」「天文」「宇宙」「植物」「鉄道」など、科学に関して子どもたちから自由に寄せられる電話相談に、それぞれの領域の研究者たちが答えるもので、私は「心と体」のコーナーで時折、出演しております。同じ科学といっても、他の自然科学とは異なり、「心と体」はいわゆる人文社会科学のテーマですので、正解は少なく、それだけに難航しながらも、子どもたちと一緒に考える、緊張しつつも楽しいひと時を持たせていただいております。
先日(9月7日)の回では、昆虫が大好きな小学5年生の女の子から、「なぜ虫の好きな女の子は少ないの? 虫が嫌いと言われると、私のことが嫌いと言われているみたいでいやだ」という質問が届けられました。まさにジェンダー問題にふれる面白い質問でしたが、まずは昆虫の専門家の丸山宗利先生(九州大学総合研究博物館 准教授)が昆虫の生態について詳しく説明されて、その後、私にも振られました。
実は私は昆虫が苦手なのですが、丸山先生の説明を聞いていて、虫の面白さに惹かれ、苦手意識が少し和らぐようでした。虫に限らず、相手のことが理解できると、好感を持てることを改めて考えさせられましたので、このことを、ジェンダーの観点を織り交ぜながら、なにより苦手意識をもっていた自身を振り返っての反省も込めて、質問してくれた女の子に話しました。
このテーマに限らず、この番組に質問を寄せてくれる子どもたちの質問は実に多岐にわたって、時に鋭く、核心をついてきます。回答者の私たちは、ときにタジタジとなりながらも、子どもたちと一緒に考えるひと時を大切にあじわっております。さまざまなことに関心をもち、そこで沸いた疑問を自分の言葉にして届けるところから、考える大切さと楽しさを子ども時代から体験するこの番組の貴重さを、改めて思ったところです。
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