9月卒業式報告
2025年09月22日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
先週の木曜日(9月18日)に、9月卒業式を執り行いましたので、ご報告いたします。 今年度の9月卒業は、学部から11名(人文学部日本語日本文化学科2名/人間社会学部国際社会学科7名/同社会園芸学科2名)でした。 このうち、1名には日本語教員の修了書も授与いたしました。
次第と学長式辞は下記の通りです
次第
司会:副学長 藤田智
奏楽:大学オルガニスト 関本恵美子
前奏
讃美歌:讃美歌21 557番 一同
聖書朗読:エフェソの信徒への手紙5章8~10節 キリスト教教育主任 宇野緑
祈祷:同上
卒業証書・学位記授与:学長 大日向雅美、副学長 稲本万里子
式辞 「さらなるSTEPへ」:学長 大日向雅美
讃美歌:讃美歌21 27番
後奏
式辞
皆様、学部のご卒業、おめでとうございます。
ご家族・保証人の方々もどんなにかお喜びのことと存じます。教職員一同を代表して、心からお慶び申し上げます。
さて、皆様はこのキャンパスで、「恵泉の心」を授業やゼミ、その他、多くの行事を通して学ばれました。とりわけ「生涯就業力STEP」でご自身を見つめ続けていらしたことは、明日からの日々にたしかな一歩を踏み出す力となることと存じます。
「生涯就業力」とは、学園の創立者河井道先生が「汝の光を輝かせ」というお言葉に込められた思いを、女子高等教育として継承発展したものです。
河井先生は、この社会に生きる者が誰一人として取り残されず、共に平和に生きることができる社会の構築を切に願われました。河井先生の願いを実現するためには、まず、皆様お一人おひとりがご自分を大切になさることです。自分らしく生きる目標を求め続けることを忘れずに生きることです。それが身近な大切な人、地域・社会の幸せにつながるとの視点をもって、力を尽くし続けることを、「生涯の就業」とすることを願ったものです。
皆様が多摩キャンパスで学ばれたこの「生涯就業力」の真価が発揮されるのが、まさに明日からです。これからの日々が穏やかで、幸せに、楽しい時の多いことを願います。
しかし、さまざまな課題に直面するのも人生です。とりわけ若い時は多くの壁にぶつかり、その都度、順風満帆ばかりではない人生に虚しさを痛感することでしょう。この先の生き方が見えないほどに厚く立ちはだかる壁を前に、絶望感を否めないのも若い時の常です。努力すること自体は苦にならないのが若さですが、どんなに努力をしても、適切に評価されない、社会に受け入れてもらえないというもどかしさに悶々とするのは、若い日の私自身をふりかえっても、しみじみと思い出されます。自身の努力とは別の次元の力、しがらみ、理不尽さが働くのも、いわゆる人事など世の常だからです。それでも、そこから逃げない、つぶされそうになっても、復活する力を秘めているのも若さの魅力です。
このことを考えさせられたのが、今、話題の映画「国宝」です。
吉田修一さんの小説が原作で、任侠の家に生まれた主人公が歌舞伎の世界に足を踏み入れ、ライバルである梨園の御曹司と共に芸の道に青春を捧げ、やがて主人公が人間国宝となるまでを描いた作品です。
これまで若い世代には縁遠いとされてきた歌舞伎が舞台ですが、映画館には年配世代以上に20代30代の人々がつめかけ、観客動員数は現時点で1000万人を超え、社会現象とまで言われています。
何が若い世代の心をここまで掴んだのかを考えるとき、私の心に残った一つのセリフがあります。「あなた歌舞伎が憎くて仕方がないのでしょう。でも、それでいいの。それでもやるの」。すでに人間国宝となっている女形の大先輩が、苦しみもがいている若い2人に向けた言葉です。
これは歌舞伎や芸術の世界だけの話ではなく、人が何かをつきつめることの本質をついている言葉として、私の心に刺さりました。
「もういや」と思うことは、どの世界に身をおいてもあり得ます。それでも続けられるとしたら、仮にそれが仕事や研究だとしたら、そのどこかが好きでたまらない、自分の存在意義がそこにあるという思いがあるからであり、その思いを大切にすることが、自分を大切にすることに他なりません。自分を大切にするというこの心を見失わない限り、人は己の人生にさらなる次のステップを切り開くことができるのだという力と夢をもらえる、鑑賞後にそんな思いに包まれる映画です。
社会に出れば、自分は適切に評価されていない。本当に自分がやりたいことが与えられない,など、世の理不尽さに涙を流すこともあるかもしれません。それでも、やるしかない、やるのだと思えるものを探し続けてください。けっしてあきらめずに、しなやかに、したたかにご自分と向き合い続けてください。「生涯就業力STEP」の学びを積み重ねていらした皆様には、きっとそれがお出来になるはずです。
さまざまな壁にぶつかったとしても、そこから逃げずに取り組む力の基本をこのキャンパスで身につけられたことは、9月卒業という今日の日を迎えられたことに、なにより証されていると思います。どうか今日の喜びを自信として胸にしっかり刻み、この先に向けてさらなるステップを踏み続けていただきたい。自ら切り開く未来こそたしかなものはありません。
これからの長い人生が皆様らしく明るく輝くことが、皆様と共に過ごした私たち教職員の心から願いであり、それを祈り続けていることをお伝えして、式辞とさせていただきます。
本日は誠におめでとうございました。
当日の模様の一端を写真(アートスタジオ スズキ提供)でご覧ください。












