学生たちに伝えたいこと~秋学期STEPⅧのはじめに~

2025年09月29日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

炎暑の夏もようやく終わりの兆しが見えて、多摩キャンパスを吹く風にも秋の気配が感じられます。

秋学期スタート時に、学生に語るひとときを持ちました

先週の月曜日(9/22)から秋学期がスタートしました。
4年生必修の生涯就業力「STEPⅧ」の初回に登壇する機会を得て、"STEPⅧの学びを始めるにあたって 今日、ご一緒に考えたいこと"と題して、話をいたしました。

「STEP」とは、下図の通り、入学した1年次(「STEPⅠ・Ⅱ」に"自分と出会い"、2年次(「STEPⅢ・Ⅳ」で"他者と出会い"、3年次(「STEPⅤ・Ⅵ」)に"社会・世の中と出会い"・・・と学びを深めつつ、4年次(STEPⅦ・Ⅷ)で、改めて"自分に立ち返る"という一貫した学びの中で、「生涯就業力」の基礎を確かにすることを目的としたものです。

社会は少しずつでも、良い方向に向かっている~子育て支援を通して感じること

「STEPⅧ」の初回は、私がこの1~2週間で経験したことなどを織り交ぜながら、まもなく社会に出ていく学生たちに贈るメッセージでした。社会の流れを見極めつつ、自分らしく生きてほしい、そのために"知る力の大切さ➡それが考える力となること➡そのために、改めて知る力の重要性"という循環を大切にしてほしいという話をいたしました。

"私がこの1~2週間で経験したこと"とは、3つの地方講演と2冊の本との出会いでした。

3つの講演とは、1)静岡県静岡市での『テレビ寺子屋』の収録(テレビ静岡)、2)宮城県仙台市での『ラジオ深夜便のつどい 公開収録』(NHK)、3)長野県佐久市での『子育て支援員養成講座』(佐久市とNPO法人あい・ぽーとステーションの協働事業)でした。

いずれも、今の子育てをめぐる問題を題材に、子育て支援をいかに推進していくかをテーマとしたものでしたが、どの会場にも、その地域の方々がたくさん詰めかけ、熱心に耳を傾けてくださいました。講演後の質疑応答も大変活発で、少子化の中で、子どもの育ちと親を守っていきたいとの思いが伝わってきました。
私が学生だった頃も親になった頃も、"子育て支援"という言葉すらなかったことを思うと、子育てや親の生き方に問題はけっしてなくなったわけではありませんが、子育てをめぐる環境は良い方向に進んでいることは確かだと思います。
これから社会にでていく学生たちが、どのようなライフスタイルを選ぶかは一人ひとりの選択ですが、子育てを一例として徐々に生きやすい社会に向かうベクトルは見えてきていることを伝えたいと思いました。

厳しい未来社会~現実を見つめない&知に背を向けることの罪と悲劇

しかし、社会の好転もけっして楽観はできないこと、受け身ではなく主体的に生きてこそ手に入れられるものであることを改めて考えさせられる2冊の本を紹介しました。

1冊は、楡周平著『限界国家』(双葉社)です。本の帯に記された"衝撃の「未来予測小説」"との言葉はけっして大げさではない、衝撃的な内容です。少子化の進展が20年・30年先の日本社会に何をもたらすかを予言した小説です。描かれているような社会になるか否か、議論はあるかとは思いますが、まさに学生たちが、40代・50代として、社会の中枢を生きている時です。予言されている悲劇を避けられるか否か、その中でどう生きるか、今起きている現実をしっかり見つめ、分析し続ける力が不可欠であることは間違いないことと考えます。

仮にもそれをおろそかにしたとしたら、その結果がどれほどの悲劇を招くかを教えられたのが、もう1冊、猪瀬直樹著『昭和16年 夏の敗戦』(中公文庫)です。
"総力戦研究所"という模擬内閣に集められた当時の若手俊英たちが精緻な分析をもとに出した報告書には、原爆投下以外の敗戦に至るすべてが予言されていたとのことです。それにもかかわらず、なぜ第二次世界大戦突入を抑止できなかったのか、当時の資料の掘り起こしと生存者への取材を通して明らかにされています。
"知っていて滅びた。今は知ってさえいない。知っていてもだめだった日本は、知らずにことが起きたら、いったいどうなるのか・・・"。本書の中でつぶやかれているこの言葉は、戦後80年を振り返るとき、ひときわ心に響いた言葉でした。

おわりに

学生がこれから生きていく場は、仕事・地域活動・家庭生活等々、さまざまでしょう。いずれの場においても、"知ることを惜しまない謙虚さと知への貪欲さ/知り得たことを丹念に記録する地道な努力&他者と共有し議論しあう勇気と誠実さ・・・"を忘れずにいてほしい、そんな願いを伝えました。