2022年度卒業式・学位授与式のご報告

2023年03月13日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

先週の金曜日、卒業式・学位授与式を執り行いました。
午前中は人文学部と大学院人文学研究科、午後は人間社会学部と大学院平和学研究科に分けて二度の式となりました。今年も卒業感謝会及び卒業パーティーは行いませんでしたが、コロナ禍も収束の兆しが見えてまいりましたので、ご家族保証人の方々は原則2名まで式場にお入りいただき、教職員と共に晴れの門出を祝うことができました。
私の式辞と写真と共に2022年度卒業式・学位授与式のご報告とさせていただきます。

式辞 「灯火とともに」 

恵泉女学園大学学長 大日向雅美

学生の皆さま、学部ご卒業、大学院ご修了、おめでとうございます。
ご家族・保証人の皆さまにおかれましては、今日の良き日をお迎えになられたことに心からお祝いを申し上げます。

コロナ禍はいまだ予断を許さない状況ではありますが、ようやく収束の兆しが見えてきた感もございます。
この間の皆様の学生生活を振り返りますと、よくぞ今日の日を迎えられたと、感無量です。
コロナ禍に閉ざされ、学業も学生生活も思い通りに進まない不安といら立ちは、若い世代の皆様にはことのほかつらいものであったことは想像に難くありません。
行きたいところに行けない、会いたい人に会えない、予定していたことができないだけでなく、予定すらも立てられない・・・。そうした日々を過ごした皆様の胸中を表現するとしたら、まさに"絶望"という二文字だったのではないでしょうか。

"絶望"という言葉を口にして思い出されるのが、2018年の平昌冬季オリンピックの女子カーリング競技で銅メダルを獲得した吉田知那美選手です。
インタビューで座右の銘を問われた彼女が答えた言葉が「安心して絶望できる人生」でした。
それまでのカーリング選手生活はけっして順調とはいえず、時に戦力外通告を受けるなど予定外の事態に遭遇し、絶望のうちに悶々としていたとき、この言葉に出会ったとのことです。この言葉を胸に立ち止まり、どん底の状況で考え、周りの人々の思いに気づくことから、絶望している自分をあるがままに受け入れることができたと語っていました。
この言葉は、もともとは心の病を抱えた人々が共に暮らす北海道浦河(うらかわ)町にある「べてるの家」の言葉です。「べてるの家」では、自分の病気を自分で研究する「当事者研究」が行われていますが、自分を「研究」してみると、苦労や絶望のおかげで自分の助け方がわかるように思えるそうです。 弱いから、虚しいから、絶望の裏返しの希望の光が見える。そして、その光は人と人がつながる道を照らしてくれるといいます。
「べてるの家」で暮らす人々も吉田選手も、不安や困難から逃げずにまっすぐに向き合う中から、大切なこと、他者との絆のかけがえなさの気づきに至っています。

不安や悩みの中味は異なるとは思いますが、皆様がコロナ禍のキャンパスライフで味わい、そこから見出されたものもまた、これと等しいように思います。
昨年の秋の「恵泉祭」を思い出してください。
「恵泉祭」のテーマに皆様が掲げた言葉、それは「つながる」でした。
コロナ禍に閉ざされつつも、皆様の目と心はけっして閉ざされることはありませんでした。
不安と数々の悩みに身を置いたからこそ見える他者の存在の大切さ、世界の広さに深く心を留めることがお出来になったのです。
とかく私たちは困難に出会うと、そこから生じる不安や悩みを消し去ることにだけ懸命になりがちです。しかし、不安や悩みと共に生きる中でこそ、人としての生き方に想いを馳せ、そこから新たな豊かさを見出せることを、私は皆様の姿から教えていただいた思いでした。

皆様のこれからの人生が、どうか幸せであってほしいと願っております。
でも、人生は平坦なことばかりではないことも確かです。
一つには、世界情勢が厳しさを増しています。コロナ禍収束後も、次々と新たな変化が日常となるニューノーマル時代の到来も伝えられています。未曽有の困難にめげずに打ち克っていただきたい。

でも、私が皆様に乗り越えていただきたい困難はそれだけではありません。
皆様がこのキャンパスで学ばれた「生涯就業力」を磨き続け、新たな時代・新たな社会を牽引する女性リーダーとなっていただきたいと願うことに伴う困難です。
新たな時代・新たな社会とは世界が平和に充ちた共生社会です。この間のコロナ禍や理不尽な戦争に苦しむ人々を目の当たりにして改めて痛感したことは、誰一人として取り残さない・取り残されない平和な共生社会の構築に他なりません。
そして、それは他者を押しのけ、他者に打ち克つことに価値を置いてきたこれまでの競争的なリーダーに託す限界もまた明らかです。

競争的リーダーに代わる分かち合いのリーダーが求められています。その力を皆様は本学で学ばれました。"何があっても、生涯にわたって自分らしく生きる目標を忘れず、ご自分を大切にする。自分の大切さを知った人であるからこそ、同じように他者の存在の大切さを知り、他者との共生の心をもって、地域・社会に尽くすことに喜びを見出して生きていく力"である「生涯就業力」ですが、これまで繰り返し述べてきたように、世界平和を願って恵泉女学園を創立された河井道先生のお心を受けつぎ、その理念を学問として昇華した恵泉女学園大学の誇りです。

90数年前に河井先生が女子教育にかけた祈りと願いが、新たな時代・新たな社会構築をめざした「生涯就業力」として発揮されるべき時を今、迎えていると言えましょう。
そして、それは恵泉女学園大学創立以来の時間と力を注いで皆様に託しているものであることを、社会に巣立ちゆくこの日、今一度、お心に留めていただけたら思います。

旧来の弊害を壊し、時代に即した新たなものを創る過程には、困難を伴うことが常です。
思い通りにならないだけでなく、人々の抗いにも会うかもしれません。ときに"絶望"の境地に陥ることもあるかもしれません。
でも、そうした困難に出会うとしても、皆様はけっして一人ではありません。
共に学び合った仲間がいます。必ずや共鳴してくださる人々にも恵まれることでしょう。
何よりも、私たち教職員はいつも、いつまでも、皆様のことを思い続けております。

河井先生は「開拓者たれ」と言われました。「まっすぐな狭い道を歩くこと、人々が踏みならした道を行くことに満足せずに、自分自身開拓者となって道を明るく照らしていく者におなりなさい。マイランターンで」。
新たな時代・新たな社会の牽引を皆様に託すとき、これ以上ふさわしい言葉はありません。
皆様の傍らには、この多摩キャンパスで学ばれた「生涯就業力」が、そして、共に学び合い、支え合った人々が、常にあなたのランターンとなって、行く道を照らし続けます。
どのような困難があろうとも、それをときに大らかに受け入れ、ときに楽しみ、与えられたものに感謝の心をもってしなやかに生き続けて下さい。
明るい未来が皆様の手で築かれていくことを信じ、ご健闘を心から祈っております。

最後に、ご家族・保証人の皆さまには、大切なお嬢様を私どもに託してくださいましたこと、そして、これからの時代を生きる人として、女性として、大切なことをお嬢様に伝える機会をいただけましたことは本当に有難いことでございました。心から感謝申し上げます。
ご家族・保証人の皆様の存在は、お嬢様のこれから先の人生でも大きな支えとなるものと存じます。どうか変わらず目をとめて差し上げていらしてください。私どももまた同じように、お嬢様の人生がよりよく豊かなものになるようにと祈ってまいります。
教職員一同の深い感謝とともにお約束を申し上げまして、式辞とさせていただきます。