東京経営者協会懇談会に出席して

2023年01月16日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

新年を迎えて、はや半月が過ぎました。秋学期の授業も残り少なくなり、学生たちは年度末の試験やレポート提出の準備に忙しくなっています。4年生はこれから迎える卒論口述試験への備えも加わる中、4月からの社会人生活への希望に胸膨らませていることでしょう。
今年度の就職状況はコロナ禍が続く中ではありますが、例年を上回る好成績をあげています。学生の努力はもとよりですが、就職委員会とキャリアセンターの教職員の尽力にも感謝の思いでおります。

就職は大学生活の一つの成果として保証人の皆様の期待と関心も高いところです。
本日は昨年の暮れに東京経営者協会主催の懇談会に出席したことについてのご報告です。

この懇談会は会員大学の理事長や学長、事務局長等の大学代表者と東京経営者協会役員とが産学連携や学生のキャリア形成のあり方について意見交換を行う会です。私は学長に就任して以来、幾度か出席しておりますが、今回は舘野英樹事務局長と共に出席いたしました。

前回は未曾有のコロナ禍に世界中がパニック状態となり、学生たちのキャンパスライフも大きな制約下に置かれていた時でした。授業はオンラインとなり、クラブ活動やアルバイト等にも支障をきたしていました。直接的な人間関係が閉ざされ、通常の学生生活を送れないことが今後の社会人生活に及ぼす影響が少なくないことが各方面で指摘されていました。とりわけ人間関係能力が疎外されることが取り沙汰されていた折でしたので、その懸念を率直にお伝えしたところ、役員の方から次のようなお言葉をいただきました。「私たち企業人はコロナ禍のもと、学生生活を送った学生たちにマイナス面以上の期待をもっています。オンライン授業は孤独だと思います。ソーシャルディスタンスをとることが求められ、尋常でない孤独のうちに日々を送っていることでしょう。そうした中で生活ペースを維持することは大変難しい。自己コントロールの力なくしてできないことであり、それを成し遂げている学生たちの心理的な耐性は、社会人になってからも大きな力となるはずです」と。
私はこのメッセージを事あるごとに学生に伝えて励まし、また保証人会等でもご紹介してきました。

今回の懇談会では、まずそのことへの感謝をお伝えすると共に、新たな課題として女性活躍時代における女子大の努めとして、本学が「生涯就業力」育成に努めていることを報告いたしました。
参加した他の12大学からも、それぞれに独自の取り組みが報告され、どちらも産学連携を大学教育の重要な要素としていることに貴重な学びをいたしました。

一方、東京経営者協会の参加者は、「東日本旅客鉄道(株)、東京海上日動火災保険(株)、東京ガス(株)、東日本電信電話(株)、鉄道機器(株)、(株)日立ハイテク、(株)ロッテ、アサヒグループジャパン(株)」の取締役会長、代表取締役社長、執行役員の方々と、東京経営者協会の専務理事、事務局長でしたが、いずれも人材確保と育成に果敢な挑戦をなさっていることがうかがえました。たとえば、少子高齢化が進む中、女性人材の確保を喫緊課題とした取り組み。新卒確保だけでなく、さまざまな事情で退職した場合でも、それをマイナスと捉えず、休職期間の経験を評価したカムバック制度の導入。一定期間の勤務を経験した人は、新たなキャリアに向けて自ら手をあげて他の職場や仕事に転向することを可能とする仕組みの導入。コロナ禍で閉ざされた環境で過ごした若い世代に、とにかく話をしてもらい、その声を聴くことに注力している等々、斬新な取り組みについて多数ご紹介いただきました。

いずれの企業も未来の人材育成のために、多様な観点から取り組み、新たなキャリア形成の推進に真摯に着手されている様子がうかがえました。こうした時代を迎えた今、まさに本学の「生涯就業力」・・・いつ何があっても、目標を見失わず自分を大切に。同時に他者を尊重し、共生の心で社会に貢献し続けることに喜びを見出す力・・・の育成が求められていることを実感いたしました。
産学連携とは、これからの社会を担う人材が夢をもって、たしかに自分の人生を生き抜くことを保障することに他なりません。大学教育に携わる者として改めて襟を正すと共に、大きな励みとなった懇談会であったことを、ご報告いたします。