女性の人生を見つめ、応援する第1級のエンターテインメント2作

2021年05月31日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

女性が生きるとは、なんとつらいことの山積みなのでしょうか。目を背けたくなるような現実。でも、そこから目を反らしてはならない。現実を見つめる中からこそ、真の解決策が、そして、生きる希望が見出せる・・・。先週、そんなことを考えさせられる演劇と映画の2つに出会いました。

一つは、『みえないランドセル』です。

「人も社会も余裕をなくしたとき、ひずみはやはり弱者へ向かうのでしょう。どの子どもからも屈託のない笑顔がみられるように......。物語を紡ぎます」。作者山谷典子さんの言葉です。
この劇は演劇集団Ring-Bongが児童虐待をテーマとしたもので、私はアフタートークに招かれて、山谷典子さんと対談のひと時をもたせていただきました。もともとは今年の1月末に上演の予定でしたが、緊急事態宣言で中止となっていました。今もまた第3次緊急事態宣言延長下ですが、劇場は人数制限を付け、コロナ禍対策を徹底するという条件で規制緩和対象となったことを受けての上演決定でした。

そして、もう一つは、映画『明日の食卓』(配給KADOKAWA/WOWOW)です。

5月28日(金)から全国ロードショーが予定されているこの映画のマスコミ試写を鑑賞させていただきました。
小学生の息子を持つ3人の母親の物語です。専業主婦、働く母、シングルマザーと、それぞれに立場も環境も異なる彼女たちですが、共通していることは、ただ良い母になりたいと、誠実につつましく生きていることです。それなのに、母となったことでまるで罰ゲームのような仕打ちを受けていく女性たち。随所に顔を出す母性愛神話の亡霊に、平和な日常が崩されていく様は、目を背けたくなるほどに壮絶な展開です。

2つともつらいストーリですが、共通しているのは、ラストシーンの温さと清々しさです。
『明日の食卓』では、母親と同じように傷つきながらも、母の苦しみも母を苦しめている闇の正体もしっかりと見つめている子どもたちがいます。その健気さに、ただただ胸打たれます。
『みえないランドセル』では、"どの母親も無償の愛を注げるとは限らない。でも子どもは、母親に無償の愛をもっている"というセリフが印象的でした。そうであればこそ、子どもを守らなければ、母親を支えたい、と近所の人たちが動きだします。

「何があっても、人は生き直せるのだ。支え・支えられて、しなやかに強かに生き直そう。」
コロナ禍で心が折れそうな今、この2つの作品が私たちに贈られるこの社会は、まだ希望が持てる・・・、そんな思いがこみ上げてくるようでした。

参考

虐待をなくすため、社会の皆で子どもを守り、親(母親)とその子育てを支援しようという最近の取り組みのうち、私がかかわったものをご紹介させていただきます。

厚生労働省 「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」報告書
~体罰によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~

厚生労働省「子どもの虐待防止推進全国フォーラム」

東京都「東京OSEKKAI化計画」

*「OSEKKAI(おせっかい)」とは、子育てしている親子を優しく温かく見守って、児童虐待を未然に防止し、早期対応につなげる計画の推進を目指したものです。