卒業式を実施して

2020年03月16日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

新型コロナ感染拡大の収束がなかなか見えず、不安な日が続いております。
3月は大学にとって節目となる大切な行事が続く中、その対応は先週のこのブログでもお伝えした通りです。

先週は3月11日に卒業礼拝が予定されておりましたが、誠に残念ながら中止といたしました。ご講演を予定くださっていた安積力也先生には本当に申し訳なく、お詫びを申し上げます。また、この卒業礼拝では各学科・研究科から1名ずつが「感話」を述べることになっておりました。準備をしていたことと思いますが、後日、文集に掲載して皆さまにご覧いただくことといたしました。

そうした中、3月12日に卒業式と学位授与式を執り行いました。多くの大学が中止を発表する中での覚悟を要した決断ではありましたが、私共は小規模な大学です。これまで一人ひとりを丁寧に見守り、その成長を喜びとしてきました。学生たちの栄えある巣立ちをなんとか祝福したいと、教職員が知恵を絞り、形式を工夫し、時間を大幅に短縮して、無事、実施することができました。
保証人には、一家族お一人という制約をつけさせていただきました。例年は親御様だけでなく、祖父母の方々等もご列席くださる例が少なくありませんでした。どんなに楽しみにしていらしたかと思うと胸が痛みます。当日の一端をご覧いただければと、ここに写真と共に私の式辞を記させていただきます。

式辞 「希望ゆくてに 輝ける」

皆さま、学部卒業、大学院修了、おめでとうございます。
新型コロナウィルス感染拡大の不安が広がっている中、こうして卒業式・学位授与式を行うことができましたことを嬉しく思います。

一部、形を変え、時間を短縮しての実施となりますが、小規模な大学だからこそできる精一杯の思いを込めて皆さまの門出を祝いたいという教職員一同の思いでございます。

ご両親・ご家族・保証人様には心からお慶び申し上げますとともに、感染予防対策上、やむを得ない処置としてご列席に制限を設けさせていただきましたことを、お詫び申し上げます。

さて皆さまをこのキャンパスにお迎えした入学式の折、私は次の言葉を贈りました。「開拓者となって道を明るく照らしていく者におなりなさい」。恵泉女学園の創立者・河井道先生の言葉です。そして、皆さまの巣立ちを祝う今日、贈る言葉は「希望ゆくてに 輝ける」です。河井先生が愛された校歌の中の一節です。

女性活躍の必要性が高らかにうたわれている今、どうか女性としてのご自身を大切に、あなたらしく輝いていただきたい。それが真に女性がのびやかに活躍できる明るい社会につながることを、女性だけでなく、すべての人が人として尊重され、だれひとりとして取り残されることのない平和な社会につながることを、心から願ってのことです。

皆さまが生きるこれからの社会は、ITやAIの急速な進歩、地球規模のさまざまな変動から、予測不可能性が高まっています。しかし、未来が予測不可能だとしても、なんら恐れるに足りません。予測不可能な未来に抗うために大切な、そして、最大の戦略は、自らの手で未来を創りだすことです。

皆様はすでにその準備を整えておられます。
自分を愛するように他の人を尊重する心を「聖書」に、アジアや欧米各地に出向き、価値観や生活習慣・文化の違いを体験し、偏見や差別に立ち向かう力を「国際」に、土に親しみ、植物を育て、いのちと自然を慈しむ心を「園芸」に学び、その上に各学部・学科・大学院研究科の専門を深められました。

そのいずれもが、生涯にわたって自分らしく生きる目標をもって、身近な大切な人、地域、社会に尽くして生き続ける「生涯就業力」として実を結ばれたことと思います。この「生涯就業力」は、これから皆さまがいかなる社会の変化やリスクに直面しようとも、必ずや、しなやかに凛として乗り越えていく支えとなるはずです。

これまで女性は結婚・子育て・介護などに直面し、その都度、描いていた人生設計の変更を余儀なくされ、時に思い通りにならない人生に涙を流しながらも立ち上がってきました。予測不可能な未来に立ち向かう耐性(トレランス)はすでに豊かに蓄えています。揺れながらも、揺れる自分を受け入れ、人生の苦楽を他者や地域のために活かすエネルギーへと転化してきています。各地で草の根的に活動し、地域を支えている中高年女性の姿に、女性の力の素晴らしさを思います。

こうした先輩女性たちの生き方に学びながらも、その力をいつまでも草の根、社会のバックヤードにとどめてはならないと思います。表舞台に立つ必要性に女性自身が目覚めるときです。

男女平等の度合いを測る世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、昨年、日本は153か国中、121位まで落ちたことが話題となっています。
しかし、ジェンダーギャップ指数の日本の劣位は、女性活躍の姿を見直すチャンスだと私は考えています。新たな女性リーダーのもとで、新たな未来を創造するチャンスです。
従来の競争原理一辺倒のリーダー像に女性が与することなく、恵泉の「生涯就業力」を発揮して、だれひとりとして取り残すことのない平和な未来の構築につなげる女性の活躍が求められていると思います。

一昨年の2018年秋、この会場で、恵泉と韓国の梨花女子大との国際シンポジウムが開かれ、学術協定が結ばれました。
130年の歴史の中であまたのリーダーを輩出してきた世界有数の梨花女子大ですが、従来のリーダー像の限界を見つめる中、恵泉の「生涯就業力」に着目され、"分かちあいのリーダー"へとモード転換を期したシンポジウムと学術協定でした。恵泉ブランド「生涯就業力」は、日本のみならず広くアジアへ、そして世界へと広がりつつあります。

皆さまの活躍がグローバルに拓かれるときを迎えています。
どうか未来の社会に希望を持って、一歩踏み出してください。けっして平坦な道ではなく、"開拓者たる覚悟"も必要かと思いますが、"希望ゆくてに 輝く"ご自身を信じ、新たな未来をご自分の手で創りだしていただければと願っております。皆さまのご活躍を恵泉女学園大学は、いつも、いつまでも、祈っていることをお伝えして、式辞といたします。