一斉休校と院生母との闘い

2020年03月23日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

私は先日(3月10日)、参議院予算委員会公聴会に内政問題の公述人として呼ばれました。主に少子化対策・子育て支援の観点から意見陳述を行いましたが、新型コロナウィルス感染拡大予防対策として取られた春休み前の小中高一斉休校問題に多くの質問が寄せられました。一斉休校が要請された時期の妥当性や必要性、科学的医学的根拠、決定に至る経緯等について疑問の少なくないところですが、とりわけあまりにも唐突な発表によって親、特に働く親の困惑と子どもへの影響について懸念される点が多いことを述べたところです。

ちょうどその翌日、学食でお昼を一緒にした学生から"「子どもたちのための緊急支援寺子屋プロジェクト」を立ち上げています"という話を聞きました。先週、このブログで報告した卒業式・学位授与式(3月12日)で平和学修士の学位を取得した院生のシャープ茜さんからです。

卒業式での学燈ゆずりを受けて、手に明かりを灯して退場
卒業式での学燈ゆずりを受けて、手に明かりを灯して退場

卒業式での学燈ゆずりを受けて、手に明かりを灯して退場

平和学研究科の皆さんと理事長・学園長・教員たちと
平和学研究科の皆さんと理事長・学園長・教員たちと

平和学研究科の皆さんと理事長・学園長・教員たちと

シャープさんのご夫君とお子さんたち

シャープさんはご夫君の協力のもと3人の息子さんを育てながらの修士論文執筆が終わり、安堵したのも束の間、お子さんたちの通う小学校が2週間の休校に。

「子どもたちの居場所は?」「仕事はどうする?」「学童クラブは空いていても通う子どもが密集して逆に危険なのではないか?」と、政府の対応や姿勢に疑問と怒りと悔しさが募るばかりでしたが、そのエネルギーを原動力として、「母になってから敢えて高等教育を受け、平和学を学ぶ者」として何ができるかを考え、「ピンチをチャンスに!」と発想を変えることにしました。子どもたちの居場所がなく、友だちと遊べないというのは、平和な状態ではないと考えるので、平和学を学んだ者として向き合うべき必要があると感じたのです。

立ち上げた「子どもたちのための緊急支援 寺子屋プロジェクト」はシャープさんの苗字をとって、「寺子屋シャープ」と名づけられました。

休校の間の子どもたちの居場所だけでなく、子どもたちの意欲や意思を尊重し、芸術や感性を伸ばす場を提供しようと思いました。共働きで普段は学童に預ける家庭、私の論文執筆の多忙な時期にたくさん支えてくれた友人たちを中心に呼びかけ、決して広くない自宅に6~8人(息子2人を含む。内訳、小学1年生多数、3年生・5年生数名)が集まり、寺子屋が始まりました。学校とは違うので、「やりたくない時はやらなくていい。でも、他の子の邪魔をしないでね」という緩やかさを持ち、学習プログラム内容は学校のように「1時間目、2時間目」としているものの、一コマは20~30分。休み時間もあり、家の中で「暗闇かくれんぼ」のような遊びをし、お昼前にはおやつも提供しました。学習プログラムの後はみんなでクッキング。自分たちで作った物を食べ、午後は天気が良ければ公園遊び、雨の日にはボードゲームや映画上映会。16時から18時まではテレビやゲームという好きなことをしていい自由時間。新型ウィルス拡大のため、ドラえもんの映画が延期になり、子どもたちが楽しめる娯楽施設が休館になるという状況下において、少しでも楽しめる工夫をしました。

「寺子屋シャープ」の様子は、その通信からもうかがえますが、楽器演奏(ウクレレ、キーボード、カリンバ、鍵盤ハーモニカ等)・紙芝居(読むのは子どもたち)・絵本の読み聞かせ(『世界一貧しい大統領のスピーチ』)・国旗かるたと地球儀での国探し・ポルトガル語のレッスン(サッカーをしている子から数字と色を学ぶ)・入浴剤づくり・お絵描き・クッキング(カレー粉の皮deピザ・おにぎりと味噌汁・白玉団子・フルーツゼリー)など盛りだくさんで実に楽しそうです。

「寺小屋シャープ」の実践を通して、シャープさんは次のような感想を寄せてくれました。

私が我が子にしたかった芸術や世界を知る学び、クッキングを、他のお子さんを通して共にできることがとても嬉しかったです。子どもたちと接しながら、それぞれの特性や興味を観察し、見事に「みんなちがって、みんないい」のように、個性豊かで、それぞれの新たな顔を発見できたのは大きな収穫でした。
2週間の休校期間が過ぎましたが、ウィルスの終息がつかないために、休校は延長となり、このまま学校は春休みに入ることになりました。「子どもたちのための緊急支援 寺 子屋プロジェクト」はこれからも続き、緊急事態が終わっても、新しい学びの場として継続していくことになるかもしれません。家庭の平和を大切に、そして日本中で兄弟姉妹げんかをしている子どもたち(特に我が子)や親子間「内戦」の平和の使者となるため行動を続けていきます。

当初、シャープさん一人で行なおうと思っていたこのプロジェクトですが、"幸運なことに強力な助っ人に支えられた"とのことです。一人は、シャープさんが独身時代から関わっているNPOブリッジ・フォー・ピース(フィリピンと日本を結ぶ平和活動プロジェクト)の仲間で、2児の父であり、現在2度目の育休(いずれも1年間!)を取得している近所に住む友人。もう一人はママ友から紹介を受けた病児保育の看護師さん。"子どもたちのために、親たちのために"という想いが込められた「寺子屋プロジェクト」ですが、この3人がONEチームとなって、シャープさんのご自宅だけでなく地域の施設での寺子屋開催も広がったようです。子どもたちの生き生きとした笑顔が目に浮かぶようです。

一斉休校に頭を抱えた母親たちの叫びが、"新型コロナウイルスなどに負けない!"との叫びに変わった、うれしくも頼もしい報告でした。