そうだ!伊勢に行こう 歴史文化学科

2015年10月28日
 投稿者:波多野 吏・富岡 真那
 ゼミ/授業名:笹尾ゼミ

こんにちは!三年の笹尾宗教学ゼミです。

この夏9月8日から10日にかけて、三重県の伊勢神宮を中心に日本の神様が祀られている神社や関連の博物館を訪ねるゼミ旅行へ行ってきました。
今回の研究テーマは『日本人の「神(カミ)」信仰 -今・昔-』として、日本の宗教文化の基層にある私たち日本人一般のカミ(神)概念やその信仰がどのように成立し、またその信仰が日本人の生活の中で実際にどのように生きられてきたのかを、今と昔を辿りつつ考えてきました。

初日はなんと、台風の最中の三重に到着しました。伊勢市駅についてすぐに雨を浴び、そばにあるお店で伊勢うどんを食べることから伊勢めぐりが始まりました。伊勢うどんは伊勢をお参りしていた人々が食べていたうどんで、長い旅路で疲れた参詣者のために消化が良いようにと柔らかくゆでられているのが特徴的です。この柔らかいうどんは好き嫌いが分かれるそうですが、我々笹尾ゼミメンバーは美味しくペロリと平らげました。

昼食後は、穀物や食物を司る豊受大神(とようけのおおみかみ)が祀られている外宮へ参拝に行きました。台風の強い雨の中で正宮や風土に関わる神様が祀られている別宮を回り、その後「せんぐう会館」という資料館を訪れました。ここでは豊受大神に関する資料の展示や社殿に施されている日本の伝統工芸の技、式年遷宮についての資料などを見ることができました。外宮正殿を原寸大で再現をしているコーナーでは、宮司の方から、伊勢神宮で用いられている建築様式、「唯一神明(ゆいいつしんめい)造り」についての説明を聞くことができました。神明造りは、食料不足にならないようにするために穀物を貯蔵する、高床式の倉庫がもとになっています。穀物を蓄えて置く場所が次第に人々の安心と感謝の気持ちを集約する場所となり、穀物の代わりに神宝を納め、神様を祀る場所へと発展していったというその経緯に、日本人の神信仰の原点を垣間みた思いでした。

二日目の朝は前夜からの台風上陸の影響で、予定していた内宮の早朝参拝が中止になるほどでしたが、その後、皆の祈りが通じたのか、10時過ぎ頃から一気に天気が回復し、内宮見学を滞りなく行うことができました。樹齢1000年を超える大木が生い茂る内宮では、二千年前の時代から沢山の人々が歩いたであろうその同じ場所を歩きながら、時間を超えて人々のカミ様への信仰に想いを馳せることができました。内宮の周りには、参拝を終えた人が帰りに立ち寄っていた「おはらい町」があります。昔は「御師(おんし)」と呼ばれる、神宮に参詣者を案内し、その参拝・宿泊のお世話をする神職の館が立ち並んでいたとのことですが、それが今では飲食店や土産物店などに変わったとはいえ、(台風上陸直後にもかかわらず)多くの参拝者・観光客で賑わうその光景は、江戸時代のお伊勢参りを彷彿とさせるものでした。おはらい町には伊勢の名物の赤福の本店があって、出来立ての赤福をその場で食べることができます。その後は江戸の吉原、京都の島原と並んで日本の三大遊郭の一つにも数えられる古市(ふるいち)へと移動をしました。古市は、かつて多くの芸者や花魁(おいらん)が伊勢を参拝した参詣客をもてなしていた場所です。この歓楽街が実は江戸幕府非公認でありながらたいへんな繁栄ぶりであったという事実には驚きました。また、当時の遊郭茶屋の一部を今でも残す麻吉旅館にも立ち寄り、懸崖(けんがい)造りという京都の清水寺と同じ造りで建てられているものを見ました。この日の夜は三重県の相差町にある家族が営んでいる民宿へ泊り、自家栽培をしているお野菜やお米で作られたとてもおいしい料理を振る舞っていただきました。

最終日は今回の旅行の中でも楽しみにしていた「石神さん」や斎宮歴史博物館へ行きました。「石神さん」は地元の海女さんが海に潜る際の安全や大漁のお願いをしてきた神様です。いつしか女性のお願いを一つだけは必ず聞いてくれるというパワースポットとなり、今では多くのアスリートや有名人もこぞってお参りにくる場所になっています。もちろん、私たちもそれぞれ願い事をしてきました。

斎宮歴史博物館では、伊勢神宮の祭りに天皇に代わって出席をする斎王の務めや伊勢での生活を映像やジオラマから見ることができます。ここは斎王の内院の発掘調査が行われていた上に建つ博物館で、そこで伊勢の地に渡って務めをしていた斎王について学べたことは貴重な体験でした。

このゼミ旅行では、今と昔をつなぐ場所に訪れることで、日本に古くからあるカミ(神)信仰という日本宗教文化の基層の一端が形成されていく姿を感じ取ることができました。現代日本人の多くが、神社仏閣で参拝するという宗教的行為を行いながらも日本人がよく自らを「無宗教」と自称するのは、日本のカミ(神)信仰が、古来、人々の日々の暮らしの中で醸成され、普段とりわけ「宗教」という意識もなく人々の生活と一体となって伝えられてきたことによるものであり、そうした生活・民俗の中に溶け込んだ宗教性が現代日本人の間でもしっかりと息づいていることにあらためて目を開かされたゼミ旅行となりました。

担当教員:笹尾典代

現代日本人の多くは宗教についてあまり深く考えたがらないし、自分とは無関係と思っている人も少なくないようです。が、一方で、お正月には初詣、お盆やお彼岸にはお墓参り、結婚式はキリスト教教会や神社で……。そう、そこに人間の「生と死」の営みがある以上、宗教という要素は私たちの身の周りにも自分の中にも必ずあるものです。宗教について一度自分なりに向き合ってみませんか。日常生活の中に埋もれているさまざまな「宗教的な問い」を掘り起こしながら、宗教についての思い込みや偏見に自ら気づくだけでも人間や世界についての見方・考え方がパアッと広がります。なにせ宗教って人間や社会の根源的な仕組みとパラレルですから。

笹尾典代