ジェンダー問題解決に寄せる学生たちの願い

2023年01月30日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

つい先日、新年を迎えたばかりと思っておりましたが、早いもので1月も今日明日で最後となります。学生たちもそれぞれに今年度の学びを終えて、これから期末試験や卒論修論口述試験に臨みます。こうして日々、学びを通して社会に出ていく準備を重ねている学生たちの姿に接していると、改めて若い人々を迎え入れる社会の在り方に精査すべき課題の多いことを考えさせられます。

先日、1年生のSTEP授業の最終まとめの回に参加いたしました。
STEP授業とは"生涯就業力"育成のための全学年必修科目で、その学びに本学の教員の多くがファシリテーターとして参画しています。その内容についてはすでに本ブログでも幾度かご報告させていただいております。
「生涯就業力STEP授業」について学生たちの振り返り
秋学期スタートに際して~「生涯就業力STEP」授業についてのご報告~

さて、先日、私が参加した1年生のSTEPⅡでは、この一年間、いろいろな講師の話を聞き、グループ討議を重ねた結果を、「なりたい自分になる」というテーマでまとめていました。全部で11クラスありましたが、「自分を大切にする」ことに視点におき、その成就を妨げると想定されるさまざまな問題点の指摘、さらにそれを乗り越えるべき課題と方法へと思考を展開する流れとなっていることが、多くのクラスに共通していました。
「自分を大切にする」ことにフォーカスした発表の中に、"ジコチュウはすばらしい"というテーマを掲げたクラスがありました。とかくジコチュウは否定的なニュアンスでとらえられがちですが、あえて逆転発想的な視点からの切り口が斬新でした。もっとも、他者を無視するジコチュウではなく、あくまでも自分を徹底的に見つめ、そのかけがえのなさから他者をも受け入れることに道筋を開こうとしている発表でした。

自分を大切にする=自己肯定感をいかに育むかを自身の課題としつつも、その願いが日本社会ではけっして容易ではないと学生たちが捉えていることもまた、多くのクラス発表に共通していました。「なぜ自分らしく生きることが難しいのか?」という観点から、個性を否定される日本社会の文化的な問題点、あるいは賃金格差をはじめとした経済的な課題等々、日本社会の現状についてさまざまなデータに基づいた考察と発表が行われました。それらは究極、「ジェンダー問題」の扉を開くことにつながっていました。

本学に入学して1年近く、これから社会にはばたく自分自身のあり方をみつめ、そこに横たわる問題点、とくに社会に根深く潜在している問題点に気づき、解決に向かおうとする姿勢を育んでくれたことにSTEP授業の手ごたえを感じ取ることができました。

若い学生たちを迎える日本社会の問題、とりわけジェンダー問題は依然として根の深いものがあります。しかし、同時に今、その課題解決に向かって改めて確かな動きがあることを考えさせられたのも、ここ1週間余りのことでした。
先週、札幌弁護士会主催の「男女共同参画・性の多様性尊重推進本部、キックオフ!」シンポジウムに講師として招かれました。私に託された演題は「男女共同参画 はじめの一歩」でした。性差別撤廃に向けて内外ともに長い時を刻んできた歴史を振り返ると、「はじめの一歩」というタイトルに、「今更?」の感は正直ぬぐえない思いがありました。しかし、学生たちから届けられた真摯な声に、「今更?」ではなく、「今、さらに」大切なことだと心に留めて話をさせていただきました。
弁護士の方々は、家庭や地域、職場、社会等、さまざまな場で生じる問題の解決に取り組んでおられます。私の話に熱心に耳を傾け、質問を重ねてくださる誠実な姿に接することができたのも、講演をお受けして良かったと思えたことでした。
学生たちの願いが叶えられる日の遠くないことを信じたいと思います。