2020年度卒業式式辞

2021年03月12日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

讃美歌 21-557番「み神の風うけ」

聖書箇所  箴言第3章21~23

 わが子よ、確かな知恵と、慎みとを守って、それをあなたの目から離してはならない。それはあなたの魂の命となりあなたの首の飾りとなる。こうして、あなたは安らかに自分の道を行き、あなたの足はつまずくことがない。

式辞「確かな知恵と慎みと」

皆さま、学部ご卒業、大学院ご修了、おめでとうございます。
この一年、新型コロナウィルス禍に世界中が苦しみ、大変つらく厳しい日々を送っています。皆様も学生生活最後の年を未曾有の事態に翻弄され、どんなに不安で理不尽な思いを抱かれたことかと思いますが、入学された時の目標を貫き、こうして卒業証書・修了証書を手にされたことに、心からのお喜びと深い敬意を表します。

逆風が吹いたとき、風よけをつくって身を守ることに懸命になるのか、風車を創ることに挑むのか、人の生き方のどちらが優れているかのたとえ話があります。答えは風車への挑戦に利があるとのこと。厳しい時こそ前向きに、ピンチをチャンスに換える精神で立ち向かう大切さを説いているようですが、私はいずれも大切にしたいと思います。

まず、身を守ることが第一です。授けられた命を、感謝をもって大切にしたい。ただ、自分の身だけを守るのではなく、他者と共に身を寄せあえる堅固な壁をつくりたい。コロナ禍で明らかとなった社会格差の深刻さを思います。確かな共生を基盤として未来に希望をつなげてこそ、逆風を逆手にとった斬新なアイディアと挑戦の力が沸き出るのだと思います。

これから皆さまが向かう社会は、予測不能な変化が日常となる「ニューノーマル時代」と、言われています。でも、恐れることはありません。その変化は皆さまがこの恵泉で学び、身に付けたことを発揮できる社会に他なりません。

「今、企業は自社の成長だけでなく、持続可能な社会や環境の実現への貢献が求められている」。経済界の方々にお会いする度に聞く言葉です。競争原理から分かちあいの原理へと社会モード転換が図られています。
東日本大震災から10年の時を迎え、被災された方々の未だ癒えない傷の深さと悲しみを思い、またコロナ禍でソーシャルディスタンスをとらざるを得ない生活を余儀なくされて、改めて持続可能な社会とは、人が人と触れあい、支えあって、豊かな関係を築くことなくしてはあり得ないことを痛切に思い知らされました。
分かちあいの社会モードへの転換に挑戦する力として今求められているのは、皆さまがこの恵泉で学ばれた「生涯就業力」にほかなりません。

何があっても、どんなときにも、自分を信じ、目標を見失わず、他者を大切にし、地域や社会に尽くすことに喜びを見出すための確かな「知」。そして、人としての品性、「慎み」をもってしなやかに凛として生きる力としての「生涯就業力」は、1929年に学園を創立された河井道先生の女子教育にかけた理念と祈りを継承したものです。

本日の式次第の中に恵泉の校歌が掲載されています。この歌は1939年、学園10周年を記念して創られ、以来、中学・高校・短大で歌いつがれ、学園の校歌として大切にされています。しかしながら、大学では2003年から歌われていませんでした。歌詞の一部が軍国調であることを危惧する声があったからです。そうした懸念の声を尊重し耳を傾ける時間をもってまいりましたが、今年の卒業式から大学でも校歌の存在を皆さまと共有させていただきます。この校歌に込められた学園創立者・河井道先生のお心は、3.11の被災の悲しみとコロナ禍の苦しみの中で、予測不能な時代に立ち向かう皆さまにぜひともお伝えしたいと願ってのことです。

恵泉の校歌は、1番が「愛」 2番が「希望」 3番が「信仰」の言葉から始まっています。

  1. 愛の泉とわきいでし
  2. 希望ゆくてにかがやける
  3. 信仰まとひて勇ましき

これはまさに聖書の言葉です。「新約聖書 コリントの信徒への手紙 第13章13節」に、人生にとって大切なものは「信仰」と「希望」と「愛」の三つである。このうちで最も大いなるものは、「愛」である、と記されています。

戦争の悲惨さとむごさに胸を痛め、戦争をだれよりも否定し、平和構築に貢献する女性の育成を願って1929年に学園を創立された河井先生は、第二次世界大戦下の厳しい統制下でも礼拝を守り続けられました。今の時代を生きる私たちには想像を超える過酷な戦いの日々であったと思います。イエス様が十字架の最期に至るまで人々のために尽くされた愛の戦いを「聖戦」と言いますが、先生は信仰に基づく愛の戦い、「聖戦」を貫かれました。そして、戦後もこの校歌を愛し続けられました。礼拝を守り、校歌を愛されたお姿に、私は平和を願う祈りに一点の曇りもないという先生の信念を思います。

その河井先生は恵泉に学ぶ女性たちに、常々、「汝の光を輝かせ」と言われました。女性が自分らしく輝くことを強く願いつつも、自分だけが輝くことなく、周囲の人もそれぞれの良さを輝かせることができるよう、そんな光の源になってほしいと願われたのです。まさに平和の究極の姿です。

河井先生の平和への真摯な祈りと恵泉を巣立つ若い女性たちの活躍への願いを、私が学長に就任したとき、つまり皆さまが入学されたときから、「生涯就業力」に結実させるべく、教職員一丸となって努めてまいりました。
ニューノーマル時代に船出する皆さまを送ろうとしている今、改めて「生涯就業力」の意義とそのルーツとなっている河井先生の祈りについてお伝えさせていただきました。
河井先生が生涯をかけて平和を愛し、学生たちをこよなく愛された、その志を確かに受け継いでいるこの多摩キャンパスで学ばれたことに、どうか誇りをもって巣立っていってください。
本日は奏楽のみの校歌ですが、この多摩キャンパスに残る私たち教職員は、河井先生の建学の理念がこめられた校歌をこれから大切に学びあい、歌詞を高らかに歌える日がくることに努めてまいります。

"友なき人の友となり、砂漠に花をさかしめなんと 愛の聖戦 勇みたたかわん"。
皆さまのご活躍を祈っております。

最後にご家族・保証人の皆さまに心からのお祝いを申し上げます。感染予防対策上、別室で、あるいはオンデマンドで式の模様をご覧いただいております。
私は入学式の折、皆さまがこれまで慈しみ育てていらしたお嬢様を大切にお預かりさせていただきますとお約束をいたしました。今日、お嬢様は恵泉を卒業なさいますが、この先も入学時にお預かりしたときと同じ気持ちでお嬢様の一生を見守らせていただきますことを、改めてお約束いたします。ご家族・保証人の皆さまにはこれからも、恵泉とのご縁を末永くいただきますことをお願い申し上げます。

学生の皆さま、ご家族・保証人の皆さまに、今一度心からのお祝いを申し上げて、式辞とさせていただきます。本日は誠におめでとうございました。