新年のメッセージ

2021年01月01日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

あけましておめでとうございます。

昨年は大変つらい一年でした。どうか今年は良い年であってほしいと願っております。
2021年最初の「学長の部屋」は、今なお続く厳しい日々を乗り越えるために、私が大切にしている言葉を贈らせていただきます。

それはパリ市の紋章に刻まれている「たゆたえども沈まず」です。
パリ市には20の行政区がありますが、すべての区の紋章に、波に揺れる帆船を描いた図柄と共にこの言葉を意味するラテン語"Fluctuat nec mergitur"の文字が刻まれています。

(参照:ギャラリー・イグレックの日記長-1 より転載)

この言葉は、2016年に私が学長に就任した際に、宗雪雅幸理事長(富士写真フイルム:現富士フイルム 元社長)からいただきました。"強い風が吹き、波が荒れたとしても、船は揺れはしても、けっして沈まないという意味です"という言葉を添えて、企業経営の厳しさに鍛えられた経験を縷々語りながら、大学運営の心得として贈ってくださいました。

皆様もご存じのように、パリはこの言葉に象徴される歴史があります。カペー朝、ヴァロア朝、ブルボン朝と、多くの支配権下での争いに翻弄され、第二次世界大戦下ではナチス政権の率いるドイツ軍に占領され、4年にも及ぶ苦しい時を重ねています。こうした苦難の目に遭いながらも、"われわれはけっして沈まない"というパリの人々の強い意志が紋章に刻まれているのです。

"人生は荒れているだけではない。開けない夜はないように、止まない雨もない。苦しくて、先が見えないと思うときは、波に身を任せていればいい。沈みさえしなければ、必ず、船も、人も前進する。沈まずに揺れることも人生の力"だという意味がこめられたこの言葉は、学長就任以来、幾度となく、またさまざまな場面でご紹介してきましたが、今ほどこの言葉を胸に刻むのにふさわしいときはないと思います。

時の流れに抗うことだけが術ではありません。抗わずに揺れる時も大切です。揺れる心は立ち止まる慎重さをもたらしてくれます。揺れるからこそ、自分の足元や周囲を見つめる冷静さと、周囲の方々の力をお借りし、共に生きる謙虚な心も芽生えることでしょう。
一日も早くコロナ禍が収束してほしいと願いつつも、これからの社会は予測の難しい変化の激しい時代を迎えることは間違いありません。
「たゆたえども沈まず」の言葉を想起することは、改めて、いつ、何があっても、自分らしい目標を見失わず、周囲の方々と力をあわせて、地域・社会のために尽くすことに喜びを見出すための「生涯就業力」の真価が問われていることを思います。

皆様のご健康とお幸せを心からお祈りして、新年のメッセージとさせていただきます。