難病の子とその家族に寄り添う女性たち

2020年01月20日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

早いもので1月も下旬を迎えました。昨日まではセンター試験。そして、これからは大学独自の入試シーズンを前に、緊張の日々が続きます。そうした中、スポット的に空いた一日、大阪まで出向いた講演先で素敵な出会いがありました。

場所は大阪市立総合医療センター。病気のきょうだいをもつ子どもたちへの支援活動をしておられる「NPO法人しぶたね」さんが『よみうり子育て応援団大賞』を受賞された記念イベントに招かれての講演でした。

「しぶたね」とはきょうだいを意味する英語siblingからとった名称。入院している子どもの看病や面会で親が病室に入っている間、長時間、廊下等で一人で待つことが多い子どもたちを支援する活動です。

わが子が難病に罹ったとなれば、どうしても親や家族の関心は病気の子に注がれることでしょう。きょうだいを案じつつ、一方で自分の居場所もままならないことに幼い胸を痛める子どもたちの寂しさとつらさに寄り添う「しぶたね」さんの活動は、病気の弟をもった法人理事長の清田悠代さんご自身の体験に根ざしたものです。
清田さんをはじめとして、この活動に関わっている方々の言葉や振る舞いのいずれもがとても優しく、講演会場が心地よい温かさに包まれていることが印象的でした。人は流した涙の分だけ優しくなれるという言葉が実感できる方々との出会いでした。

そして、もう一つの嬉しい出会いは、写真家和田芽衣さんとの出会いでした。
和田さんは3人のお子さんのお母様ですが、生まれて間もないご長女に難病が判明。以来、この子の可愛い顔と姿を残したいと撮り続けた写真が5年間で5万枚にも。その中から拾った30枚の写真集が、2016年に若手写真家の登竜門である名取洋之助賞を受賞された方です。

もともとは心理士になることをめざして大学・大学院で学び、医療系大学の精神腫瘍科で患者や家族の心理ケアに携わっておられた和田さんですが、難病の子の誕生と共に、天職と考えていた職場からも去らなければならないという二重の苦しみに遭遇されました。5万枚の写真は、「人生のどん底から這い上がり始めるまでの記録」とのことですが、前述の清田さんと同様に、ご自身が辿っていらしたご苦労を感じさせない、むしろ優しい明るさに包まれた方でした。

お二人の共通点は、ご自身のご苦労を他者のためになる活動へと転じておられることではないかと思います。清田さんは病気のきょうだいを持つ子とそのご家族を支援するNPO活動に。和田さんもまた、わが子とご自身を見つめ続けた5万枚の記録から、やがて世の多くの人に難病や障がいのことを写真で知らせる活動へと展開しておられます。当日も講演会場の外で、「私たち普通のお母さん」と題して、幾組かのご家族を撮り続けた写真展が開催されていましたが、そこに注がれる和田さんの眼差しもまた、和田さんご自身のような明るさと優しさに溢れていました。

清田さん・和田さんのお姿に、私はふと、河井道先生の「汝の光を輝かせ」の言葉が思い出されました。周囲の人々を明るく照らす源として、人生をしなやかに凛として生きておられるお二人でした。

なお、最後にもう一つ、嬉しい出会いが。それは和田さんのお母さまが恵泉の卒業生でいらしたとのことでした。お母様のお名前をうかがうと「奈良林」さん。そこからまた一つ、思いがけない展開がありました。「奈良林」という珍しいお名前で私が記憶しているのは、性教育の草分けとなられた奈良林祥先生です。お尋ねすると、「私の祖父です」というお返事が返ってきました。性を口にすること自体がタブーとされていた昭和の前半の時代に、性を人間の基本的な尊厳に位置付けて、性教育の啓もう活動に尽力された方のお孫さんだったのです。祖父から母へ、そして娘へと、受け継がれてきたもののうえに、確かな光が灯しつづけられている。そんな嬉しさを抱えて大阪を後にいたしました。 

講演を終えて「しぶたね」の皆さんと和田さんと
前列中央が清田さん 後列左から二人目が和田さん
後列右端が子どもたちを楽しませるシブレンジャー