私の考える「生涯就業力」~その2~

2019年04月29日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

新年度が始まってひと月、学生たちの元気な声がキャンパスにあふれています。
新入生たちも少しずつ大学生活に慣れたことでしょうか。
大学での生活を始めるにあたって、何かと戸惑いや不安もあったことと思いますが、そんな新入生たちを丁寧に、そしてきめ細やかにサポートする制度が本学の学年担任制です。
4人の教員がすべての新入生一人ひとりとの面談を行っています。最初は限られた短い時間ですが、「ようこそ恵泉へ」の心をこめて顔合わせをすることで、何かあったらいつでも相談できる関係を築いてくれています。

今回は、多摩キャンパスで、「しなやかに 凛として」生きる「生涯就業力」を学ぶ大切なスタートを担っている4人の学年担任の先生方に、『私の考える「生涯就業力」』について、寄稿してもらいました。これは本ブログで2月18日から始めた『私の考える「生涯就業力」』の第2弾です。

関本恵美子(パイプオルガン)

恵泉女学園中学・高等学校を卒業し、大学院修了後より現在までオルガニストを務めています。チャペルのパイプオルガンの生まれ故郷であるオランダに惹かれ、私にとっては第二のふるさとのようになっています。

自分と他者の個性を大切にし、自分らしく歩むこと。また、その自分らしさをどのような時にも見失わず、自分の軸として、出会う人々に喜んでいただけることに使えることが、私の考える「生涯就業力」です。

4年生の必修授業「卒業演習」の一環で、毎年学生と共に恵泉蓼科ガーデンを訪問しています。植物のありのままの姿を大切にし、どの花ものびのびと個性を輝かせつつ美しく調和しているガーデンは、私たちにありのままの自分を認め、自分らしく歩むことの大切さを教えてくれます。厚い氷に覆われた土の下、厳しい寒さを乗り越え、喜びに満ちて芽吹く木の葉や花々は、私たちにその喜びを分かち合ってくれているようです。これらの自然の姿に心解きほぐされ、自分自身にしっかり向き合う時をすごすと、一人ひとりが穏やかな表情で心の声を自分のことばで紡ぎだします。

自然豊かなキャンパスのあちらこちらにそよ吹く優しい風は、日々一人ひとりの学生が自分らしさを見いだし、周りの人々に喜びを届けている証だと感じています。

水上晃実(教育学)

最近、アロマオイルに凝り始めました。訪れてくださる皆さんにもリラックスしていただければと思い、研究室でもその時々でいろいろな香りを楽しんでいます。

新入生の皆さんと面談をしていると、「生涯就業力って、一生働かなければいけないという意味ですか?」という質問を受けることがあります。「大学を卒業したら正社員として働き続けなければいけない」「パートタイムではいけない」そう考えてしまうと、就職活動どころか大学生活が始まったばかりの新入生にとっては、大きなプレッシャーになってしまうかもしれません。恵泉で培おうとしている生涯就業力とは、決して正社員としての継続だけに重きを置いているのではないと私は捉えています。むしろ、何らかの理由により働くことを中断しなくてはならなくなった時にこそ発揮させるべき力、つまり、「どのような状況でも自分を信じて前を向く力」そして、「次の目標が定まった時に動き出す力」ではないでしょうか。長い人生を歩む中で、私たちは様々な岐路に立つでしょう。時にはお休みが必要なこともあります。しかし、その度にネガティブになることなく「大丈夫、また歩き始めよう!」と、私たちを元気にしてくれる力、それが私の考える生涯就業力です。

岩佐玲子(教育学)

趣味は映画、旅行、部屋に花を飾ること、お弁当作りです。シンガーとして、病院や福祉施設のベッドサイドで歌を歌って18年になります。世界を旅しながら海外の日系の方々に日本の歌を届けることが将来の夢です。

2018年クリスマスコンサート
(子どもたちと一緒に)

私が考える「生涯就業力」とは、「目の前の人を幸せにする力」です。

目の前の人とは、家族、友人、同僚、町ですれ違った人も含めた、自分以外の他者のことです。例えば、職場で何かを頼まれた時、すぐに「はい」と気持ちよく応えると、相手は安心します。さらに、頼まれたことに一生懸命取り組み、期待を上回る速さと出来栄えで完成させれば、相手は感動し笑顔になることでしょう。相手が喜んでいることを感じると、嬉しさややりがいを覚え、自分自身も幸せになれます。

マザーテレサは言いました。「あなたに出会った人がみな、最高の気分になれるように、親切と慈しみをこめて人に接しなさい。あなたの愛が、表情や眼差し、微笑み、言葉にあらわれるようにするのです。」

小さなことでも大きな愛をもってすぐに行動できる力。そのために自分自身の心を常に愛で満たしていること。それが恵泉女学園大学で磨くことのできる人間力「生涯就業力」の真髄です。

谷口稔(日本思想)

旅行が好きで、世界40カ国を回りました。百聞は一見に如かずという言葉の重みを感じます。専攻は日本思想で、新渡戸稲造が専門分野です。31年間の恵泉女学園中学・高校の教諭を経て、2018年から恵泉女学園大学で教えています。

世界遺産の旅 五島列島の教会にて

日本の幸福度は、世界の中で58位と先進国の中では幸福度が低いという国連の統計結果が最近出ました。健康寿命、GDP共に上位にくる日本ですが、人生選択の自由度が64位と低迷していることが影響しているようです。

これは生涯就業力と関係しています。生涯就業力をどう身につけていくか、私は4つのことを提案したいと思います。まず、勤勉です。物事に真摯に向き合わずして成功はあり得ません。2つ目は、与えられた課題だけでなく、新たな分野を自分で調べてみるなど、視野を広げていくという姿勢です。これを進取の気性と呼ぶ人もいます。3つ目は社交性です。相手とのコミュニケ―ションを図り、自分が歩み寄るべきところは歩み寄るという姿勢です。そして最後は、他の人があまりやらない分野で特技を磨くことです。私は空手を習いましたが、その中から人生の教訓になる多くのことを学びました。生涯就業力は、その人の総合力です。地道な努力と個性豊かな人間になることが求められているように思います。