9月卒業式・学位授与式 式辞 2017/9/14

2017年09月25日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

凛として生きる

皆様、学部卒業・そして大学院修了、おめでとうございます。
ご家族・保証人の方もおみえくださいまして、こうして教職員と共に皆さまの晴れの日をお祝いできますことを、とても嬉しく思います。

9月の卒業式・修了式の式辞に際して、私は3月とはまた異なった感慨を覚えます。
友人たちの多くが恵泉を巣だっていく姿を春先に見送ってのち、時を経て、皆様は今日の日を迎えられました。
一人ひとりにかけがえのない人生の歩みがあることを改めて思う日です。

そこにはただ多様性・個性の尊重という言葉では飾りきれない豊かな時間があったと同時に、ときには厳しい時間も流れていたことでしょう。
ほかの人とは異なる道を歩む日々に、孤独や焦りを感じたこともあったかもしれません。

それでも皆様は大学・大学院に入学された当初の目標に向かって歩み続け、それを成し遂げて今日の日を迎えられました。

「まっすぐな狭い道を歩きなさい。人々が踏みならした道を行くことに満足せずに、自分らしく生きなさい」と言われた河井道先生の言葉は、私が常日頃、道標としているものですが、この言葉に込められた意義を今日、皆様を前にして改めて思います。

ときあたかも女性活躍の時代を迎えております。
ようやく女性が、自分の手で自分の人生を自分らしく築いていける時代を迎えています。
そうであればこそ、恵泉で学んだ真の成果を活かしていただきたいと願っております。

女性活躍という言葉に踊らされることなく、表面的できらびやかな、画一的な活躍にも目を奪われない生き方ができる女性となってくださることを信じております。

皆様が生きるこれからの時代は、社会のさまざまな場で従来にない激変が予想されています。前例に従って、あるいは大勢について生きていけば済む時代ではありません。
歴史上経験したことのない、初めての厳しい現象が到来するとも言われています。
しかし、これは女性にとってけっして初めてのことではなく、したがって必ずしも恐れることではないと私は考えます。
むしろ女性たちはこれまで必ずしも一直線とは言えない人生を送ってきました。
そこで耐え、それでも生き抜いてきた力を発揮するチャンスなのです。

皆様がこれまで過ごされた時間はこの先の長い人生のほんの入り口かと思いますが、はじめにも申しましたように、3月に卒業・修了していく友人たちの多くとは異なる道のりを歩んで今日の日を迎えられました。この先に待ち受けているかもしれない変化の多い未来を生き抜くためのステップを、すでに巧みに乗り越える経験をなさったのです。

そして、そこに人文社会科学領域の学びを主とする恵泉のリベラル・アーツ教育があったことを思い、誇りを持っていただきたいと願っております。

人文社会科学領域は理数系と異なり、明快な一つの正解を得ることが難しい学問です。
時には森をさまようような心細さに陥ることも少なくないはずです。
そうした過程を踏みしめながらも、恵泉の学びの中で、学生の多くが自身の関心と真理の追究に必要な「知識・理解・技能」と「現状の課題を把握し、たくましく解決する力」を身につけています。激変の時代を柔軟に、たくましく生きる力の基礎をしっかり磨いているのです。

こうした恵泉での学びを忘れずに、この先、どんな時代にあっても、生涯にわたって、自分らしく生きる希望と目標を持ち続けていただきたいと願っております。

もっとも、自分らしく生きる目標を生涯にわたって持つと言っても、目標それ自体は必ずしも同じものとは限らないことでしょう。むしろ、時代の変化に対応して柔軟に変えることも必要です。子育てや介護など身近な大切な家族のために人生設計を変えることがあるかもしれません。

しかし、けっして変えてはならないものがあります。
常に前向きに挑戦しようとする意志を持ち、必要な知識と技術を磨き続けることです。社会情勢をしっかりみきわめ、そこにご自身の今と未来を重ねて熟慮する姿勢です。

そうして、ご自身で判断し、決定することを大切にしていただきたい。
自分が決定したという納得感と誇りを持てれば、仮に思い通りに行かなくとも、言い訳をしたり、人のせいにしたりしない潔さを持てることでしょう。
一言でいえば、「凛として生きる」ということです。
もちろん、独りよがりに陥らないこと、一人だけで頑張りすぎないことも大切です。そのためにも、恵泉で学ばれた他者を尊重し、共に生きる心を忘れないでください。これが必ずしも一直線ではない人生を豊かに生きるすべだと思います。

「まっすぐな狭い道を歩きなさい。人々が踏みならした道を行くことに満足せずに生きなさい」と言われた河井道先生は、同時に「何があっても いつ、どこにあっても なくてはならない人におなりなさい」との言葉を添えておられます。
そうした女性になるためにこそ、「凛として生きる」ことを心がけていただけたらと思います。

これからの皆様の人生が豊かで幸せな時間に満たされますように、ご活躍とお幸せを心から祈って、式辞といたします。