スプリングフォーラム報告~岩田喜美枝氏講演を中心に~

2019年06月03日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

雲一つなく爽やかに晴れ渡った5月25日(土)、スプリングフォーラムが開催されました。
前週の本ブログで予告させていただきましたように、今回はフォーラムの午前中に行われた岩田喜美枝氏の特別講演を中心にご報告いたします。
岩田氏は厚生労働省雇用機会均等・児童家庭局局長を退官後、(株)資生堂取締役から副社長を務められ、現在も東京都監査委員や神奈川県男女共同参画会議会長等で、女性活躍のために幅広くご活躍です。

詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

岩田氏のご講演テーマは『女性のキャリアと「生涯就業力」』。4年制大学卒の女性に雇用の門がまだほとんど開かれていなかった時代に労働省に入省し、その後、キャリアとして道を邁進しながらご家庭では二人のお嬢様の子育てにも尽くされた岩田氏ですが、その原動力の影に、"子どもには財産よりも教育を残す"というご両親の教育方針があったということから話を始めてくださいました。小学校教員をされていた岩田氏のお母様は、出産後に仕事を辞めて専業主婦になられたとのこと。当時は女性が仕事と子育てを両立できる環境になかった故の選択でしたが、仕事を辞めたことを生涯悔やまれ、岩田氏には仕事を継続することを強く薦めてくださり、そのために協力を惜しまれなかったとのことです。また高等学校教員・校長でいらしたお父様からは"高潔であることの大切さ"を教えられ、それが国家公務員として働くときの基本姿勢となったとのことでした。

結婚して二人のお子さまに恵まれ、文字通り仕事と子育ての両立に奮闘し、当初は必ずしも協力的ではなかったご夫君への不満をお持ちになった時期もおありだったこと。しかし、やがてお姑様の介護の時のご夫君の姿勢に胸打たれて、夫婦の絆を深められた経緯などを率直に語ってくださりながら、志と工夫次第で、"両立はだれでも、必ずできる"と言われ、配偶者選びのポイントなども伝授くださいました。

川の流れのようになめらかに話を運ばれた岩田氏のご講演ですが、やはり圧巻はご自身の仕事経験にテーマが及んでからでした。労働省入省は、当時、4年制大学卒の女性には末永く働く道を開いてくれる企業がなく、やむを得ずとのこと。とはいえ、当時は今以上に女性にとって国家公務員試験パスが難関だったことは想像に難くありませんが、入省してしばらくは大きな仕事が与えられず、不本意な職業生活を送るしかなかったとのことでした。しかし、不本意であってもけっして投げやりにはならず、当面の仕事に全力を尽くした。それがやがてやりがいのある仕事を与えられることにつながったと後から思えるのだと言われました。このくだりでは、特に就活をしている4年生に向けて、「やりたい仕事が分からない、あるいは希望した職種につけないということもあるでしょう。でも、そんなことで悩まないで。どんな仕事でも真摯に向きあえば、必ずやりがいはついてきますよ」と力強いメッセージを送ってくださいました。

女性がキャリアとして働くことが、いかに当時は厳しかったことでしょう。そのご経験がやがて省庁で、さらには民間企業で日本女性の活躍推進の道を切り拓いてくださることにつながったのだと、感慨深く伺いました。
さらに、私がとても意外だったのは、厚生労働省で局長を務められた後、次の仕事が見つかるまで「転職の不安」に苛まれたというお言葉でした。「紅一点」の華やかなキャリアを邁進された氏でいらっしゃいますので、次は何の苦もなく企業のトップという華やかな道が用意されていたとばかり思っておりました。しかし、岩田氏はお定まりの天下りを辞退され、その後の数か月、「失業の不安」に苛まれたというお言葉を使いながら、その不安をバネに自らポストを獲得されたというお話に、正直、頭の下がる思いでした。

「納得のいく人生をマルチに貪欲に生きなさい。どうか幸せな人生を生きてほしい。それは人の役に立つことです」というお言葉でご講演を結ばれました。

ご講演の後は、3人の1年生が岩田先生を囲んでのトークタイム。自ら希望して名乗り出てくれた1年生(蘆 仁淳さん:日本語日本文化学科、レイエス クリスティーナさん:国際社会学科、村上優姫さん:社会園芸学科)が、緊張の面持ちで、精一杯の思いをこめてご講演への感想と質問をしましたが、その一つひとつに丁寧に答えてくださいました。その内の一人が、「私は自分に自信がもてない。どうしたら先生みたいに前向きになれますか?」という問いに、岩田先生はこのように答えられました。「あなたは自信がないなんて思うことないですよ。こんなに大きな会場で、500名近い人がいる会場で、自分から進んで私に質問してくれたではないですか。その勇気に自信をもっていいんですよ」。

このフォーラムの参加者は主に1年生と4年生でしたが、フロアーからも活発に手を挙げて質問する学生が次々と出て、岩田氏はとても驚くと共に、「すばらしい学生さんたちですね」とお褒めの言葉をいただきました。

最後に一般参加者の方から「大切にしているお言葉はなんですか?」との質問に、岩田氏のお答えは『一所懸命』です。このお言葉をうかがったとき、私は本当にその通りだと思いました。今回のご講演のためにわざわざ原稿をご用意くださり、お二人のお嬢様に事前にご意見を聴いてくださったとのエピソードもお話の中にありました。大学入学して間もない1年生たちに、そして、これから社会で活躍するために就活をしている4年生に向けて、ご自身の人生を語ってくださりながら、それを恵泉女学園大学の「生涯就業力」につなげて語ってくださる流れにも、どれほどのご準備をくださったのか、まさに何事にも『一所懸命』に真摯に向き合われるお姿でした。会場を埋めた学生や参加者たちが大きく胸打たれたご講演でした。

なお、今年はこれまでの「スプリングフェスティバル」から「スプリングフォーラム」へと名称を変更して開催いたしました。その趣旨は次の通りですが、まさにこの趣旨にかなったご講演をいただけたことを、岩田氏に心から感謝申し上げます。

大学では2005年よりスプリングフェスティバルを開催してまいりました。スプリングフェスティバルの当初の目的は、キャンパスの花々が一番美しい時期に、地域の皆さま、学外の皆さまにキャンパスにお越しいただき、本学の教育について広く知っていただこう、というもので、学生主催の学園祭と異なり、教職員を中心に企画・実施するものでした。
回数を重ねていく中で、学内外の参加団体も増え、露店のテントもにぎやかになりましたが、一方で本来の趣旨が見えにくくなったという反省もありました。そこで、2019年度は本来の趣旨に立ち返り、名称もスプリングフォーラムと新たにし、本学の教育内容を学内外に発信する機会として再出発することになりました。ご存知のように、本学では生涯就業力の養成を大きな目標に掲げ、日々教育にあたっておりますが、このフォーラムにおいても女性の生涯就業力について理解を深めるプログラムを中心に据え、さらに恵泉教育の3つの礎である聖書・国際・園芸について発信する場としたいと思います。

(スプリングフォーラム実行委員長 樋口幸男教授)

当日は基調講演の他に、本キャンパスでは「タイ長期フィールドスタディ・インターンシップ表彰記念座談会」「Spring Concert」「KEES・恵話会」「メイポールダンス」ほか、各学生活動の紹介.展示。南野キャンパスでは「ファーマーズ・マーケット」「オーガニック・カフェ&ショップ」「福島菊次郎写真展」「太陽光パネル清掃&見学」など、盛りだくさんのプログラムでした。その様子は写真でインスタグラム的にご覧いただければ幸いです。阿部裕行多摩市長ほかたくさんの来場者にいらしていただき、盛況のうちに終えることができました。