私の考える「生涯就業力」~その3~

2019年06月17日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

今年から、教職員一人ひとりが考える「生涯就業力」についてお届けしております。
今回はそのシリーズの3回目。学園法人本部の宇田川篤事務局長のチャペルでの感話(6月5日)です。
タイトルは『生涯就業力と一本歯下駄』(聖書朗読:マタイによる福音書5章13節~16節)。

宇田川事務局長の趣味は走ること。趣味の紹介から話が始まりました。

私は走ることが好きで、週末など時間があるときによく走ります。普通の舗装してある道を走ることもあれば、舗装していない山の中を走ることもあります。林道、砂利道、登山道などです。私は神奈川県の伊勢原市というところに住んでいるために、家から15分ほど走ると丹沢の山の入り口まで行くことができます。そこが私の遊び場になっています。

普通にシューズを履いて走ることもあるのですが、裸足で走ったり、一本歯下駄で走ったりすることがあります。人間はもともと裸足で走り回って山の中で狩りをして生活していたわけですから、何も不思議な事はありません。本来の足の機能をしっかりと利用した、自然な走りができるということで「裸足ランニング」という走り方が今、見直されてきています。皆さん、芝生の上を裸足で歩いたことはありませんか。裸足は開放感があってとても気持ちのいいものです。しかし、今日は一本歯下駄の話をしたいので、裸足の話は次の機会にお話することとします。

皆さんは一本歯下駄をご存知でしょうか。下駄というのは、日本の伝統的な履物で、いろいろな種類がありますが、普通は歯が二本 です。しかし、一本歯下駄はその名のごとく、歯が一本です。もともとは山道を歩くための下駄で、その昔、山の中で修行する僧侶や山伏(やまぶし)などの修験者(しゅげんしゃ)が主に履いていたと言われています。
そのことが由来となって、天狗が履いていたと言い伝えられて、「天狗下駄」とも呼ばれています。

「早く見せろよ」という声が聞こえてきそうなのでお見せします。
歯の高さは様々なのですが、これは10センチ位です。履くだけで急に背が高くなって、見える世界も違ってくるという面白い履物です。

「早く履いてみせろよ」という声が聞こえてきそうなので、履いてみます。

  • 普通、スーツでは履きません。
  • すごく不安定な履物ですが、履くことで自然と姿勢が整います。胸を張って背筋が伸びます。
  • 歩くのはそれほど難しくありません。誰でもすぐに歩けます。もっと慣れると走れるようになってきます。
  • むしろ静止するというのが難しいのです。慣れてくるとできるようになりますが、静止するよりも前に進んでいるのが気持ちいいです。止まっていても意味がない。前に進めと言われているようです。
  • 因みにこれでフルマラソンを完走した人が16人います。仲間に先を越されましたが、私は17人目になりたいと思っています。

私はマラソンのトレーニングのために始めたのですが、この不安定感が、逆に楽しいのです。楽しくて手放せない履物になっています。これで山の中を走るのです。当然、すれ違う人たちからは驚かれますが、それがまた楽しい。山道は舗装されていませんから、地面が凸凹です。普通の道路のように平坦な道を走るのとはわけが違います。木の根が生えていたり、石や木の実が落ちていたりして、うまく走れないときもあります。つまずいたり、時には転ぶこともあります。怪我することもあるかもしれません。でも、そうならないように神経を尖らせて集中して走るのが楽しいのです。

ここから、一本歯下駄走行の話が「生涯就業力」へと展開していきました。

皆さんはこの恵泉女学園大学に入学して、生涯就業力を身に付けていることと思いますしっかりと学び、生涯にわたって自分らしく生きる希望を持ち、自分を磨いてほしいと願っています。人生には結婚や出産、育児や介護などの様々なライフイベントがあります。
とても変化にとんでいます。不安定でもあります。決して平坦な舗装されている道ばかりではありません。山道のように舗装されていない、凸凹な道もたくさんあります。坂道もあります。

そういう道を進むときに、姿勢が大切だと思うのです。物理的な姿勢と精神的な姿勢です。
物理的な姿勢、やはり猫背のような姿勢はよろしくないと思います。ぜひいつも胸を張って背筋を伸ばしていてほしい。そして、精神的な姿勢とは、いつも前向きな姿勢でいていただきたいということです。胸を張って背筋を伸ばし、常に前向きな姿勢で人生を走ってください。疲れたときは歩いてもいいと思います。立ち止まることだってあるでしょう。
でもそういうときも背筋は伸ばしていてください。背筋を伸ばして、前向きな姿勢で、何があっても、しなやかに、したたかに、自分らしく生きていっていただきたいと思っています。

私はこの一本歯下駄が生涯就業力を実践していく上でのひとつのツールになるような気がしたので今日は皆さんにこれを紹介しました。別に皆さんに履いていただきたいと思っているわけではありません。でも興味のある方はこの礼拝後にここにおいておきますので、どうぞ試してみてください。

人生は不安定です。私たちは不安定な世の中で暮らしています。将来のことが不安であったり、悩むことが多い毎日です。でも、不安定は、負の要素ばかりではありません。
急に嬉しいことが起きたり、想定外のサプライズがあったり、何かに感動したりということもあります。不安定だからこそ楽しい人生、ということも言えます。
不安定な世の中でも、神様により頼んで、まっすぐに背筋を伸ばして、前向きな姿勢で歩んでいくことが大切だと思います。

この恵泉において学んだことを生かし、さまざまな困難を乗り越えつつ、創立者河井道先生が「汝の光を輝かせ」と言われたように、あなた方の光を人々の前に輝かせて生きていけますように、皆さんの学生生活を応援しつつ、前途をお祈りしています。

学生たちの多くは初めて見る一本歯下駄だったかと思いますが、実際に履いた姿を見せながら、生涯就業力の学びと結び付けてのライブ感豊かなチャペルでのひと時でした。