新年度を迎えて~映画『国宝』と若者たち~
2026年04月06日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美
4月、新年度に入りました。
多摩キャンパスでは、3月に2026年度に向けて保証人説明会を実施し、以下の次第にそって各部門の責任者から説明を行いました。
恵泉で磨く「生涯就業力」(大日向雅美学長)/授業・成績に係る体制(稲本万里子教務委員長・副学長)/学修支援体制(漆畑智靖学修支援委員長)/学生生活支援(楊志輝学生委員長)/就職進路活動支援(藤田智就職委員長・副学長)/大学生活全般に係る変更点(舘野英樹大学事務局長): 司会進行(野間田せつ子大学事務局次長)
やむなく欠席された皆様には、大学HPの「在学生・保証人サイト」に当日の資料を掲載しておりますので、ご覧ください。
さて、4月は新しい職場や学年に進む若者や子どもたちが期待と不安に胸を膨らませる時かと思います。この3月に社会に羽ばたいていった卒業生たち、4年次に進級した在学生たちが、これからの時を心豊かに過ごしてほしいと願いつつ、本日は映画『国宝』について考えた拙稿(熊本日日新聞『くまにち論壇』2026年3月29日掲載)を紹介させていただきます。
日本の伝統芸能である歌舞伎を舞台とした映画『国宝』(原作:吉田修一著『国宝』)は、歌舞伎とは無縁の世界から役者となった主人公の喜久雄(吉沢亮)と、梨園の御曹司俊介(横浜流星)が繰り広げる友情をベースに、二人の間の葛藤と浮沈を描いた物語です。興行収入・観客動員数ともに実写映画として日本映画史に名を刻む作品といわれていますが、観客は年配層だけでなく、若い世代が多数を占めていることも大きな特徴です。日本の伝統芸能の魅力が若い世代を目覚めさせたという評価もありますが、はたしてそれだけでしょうか?
ネット上に「今まで漠然と生きてきたけれど、もう一度、懸命に生き直したい」といった若者たちの声を見かけます。歌舞伎にも舞踊にも縁のなかった二人の俳優が、1年半余りの稽古を積み重ね、命がけで役に向き合った姿に触発された言葉ではないかと思われます。
ラストの名場面「鷺娘」を飾った主演:吉沢亮は、踊りに没入し、自分の呼吸音しか聞こえなかったとか。「美しく踊れることはわかったから、今度は喜久雄で踊って」との李相日監督の言葉に渾身で応えたとのこと。監督が求めたのは歌舞伎の美しさや技巧ではなく、浮沈の多い人生を必死に生き抜こうとする若者の姿だったと思われます。
「つらい、逃げ出したい」と思うことは、どのような世界に身を置いてもあり得ます。それでも続けられるのは、それがなんであったとしても、そのどこかが好きでたまらない、自分の存在意義をそこに見出し、逃げずに挑戦し続けることで道が開かれる・・・という力と夢を若者たちは映画『国宝』から感じ取っているのではないでしょうか。
さらに、この映画は日本の伝統芸能に携わる人々だけで創られた作品ではありません。
映像美を支えた撮影監督ソフィアン・エル・ファニはチュニジア出身でフランスを拠点に活躍、全体を率いた李相日監督のルーツは朝鮮半島、役者、スタッフ、美術、音楽、エキストラ等々、誰一人欠けても成立しなかったというほど、国境を越えた多くの人の献身が結晶した作品です。
新年度を迎えた若者たちの人生もまた、多くの人のまなざしと愛に包まれながら豊かに展開していくことを願いたいと思います。
拙稿の詳細は、熊本日日新聞社のご理解を得て、ここに転載させていただきますので、お読みいただければ幸いです。
熊本日日新聞『くまにち論壇』2026年3月29日掲載
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