新型コロナウィルス感染下でも恵泉の「生活園芸」を守って!

2020年08月10日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

新型コロナウィルス感染の収束がなかなか見えず、むしろ感染拡大の方向に向かっているようです。厳しい夏を迎えておりますが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか?

春学期の授業はすべてオンラインとし、そのほとんどが無事、終了したことは先週のこのブログでもご報告いたしました。
そうした中、大変気がかりだったことは実習、とりわけ1年生全員が恵泉に入学して経験する3つの礎科目の一つの「生活園芸Ⅰ」です。卒業生や恵泉にゆかりの皆様もご心配くださっているのではないかと思います。どのような工夫で乗り越えたのか、チーム「生活園芸」担当者から報告を寄せてもらいました。

生活園芸Ⅰは8クラスを7人の教員が担当しています。異なる教員が共通カリキュラムで授業を行うために、2~3か月に1度農場連絡会議を、長期休暇中は園芸担当者会議等を開催して、授業の質の向上と均等化、関連科目との連携に努めてきました。長年かけて築いてきたこのチームワークが、「実習科目もオンライン授業で」という緊急事態下でも大いに発揮されました。最初に会議を開いたのが4月18日、それ以降毎週のようにオンライン上で、授業の進め方を検討・確認しました。それをもとに代表者が共通教材を作成し、授業を進めることで、教育の質を落とすことなく春学期を乗り切ることができました。その概要をお伝えします。

「教育農場の今Part1」より
「教育農場の今Part1」より
  1. 農場の様子を毎回スライドで紹介:授業では「教育農場の今」と題して毎回、その前の週の畑の様子と「過去の実習や畑の様子」を紹介することで、自宅にいながらも教育農場の様子を身近に感じてもらえるように努めました。また、10年ほど前にテレビで放映された「彼女たちの畑」(大学公式ホームページから視聴可)のビデオを各自鑑賞し、感想を述べあうなど、2回に1回程度は、授業の中で小グループに分かれて、カメラ越しであっても学生同士が交流できる機会を設けてきました。

    「教育農場の今Part2」より
    「教育農場の今Part7」より
  2. 身近な野菜の再生栽培で、自宅に居ながらいのちを育む体験:
    今回の最大の懸念事項は、学生がタネや土など園芸資材購入のために外出することなしに、自宅で何を栽培できるかということでした。様々な議論の末、身近な野菜を使った再生栽培を主要な課題の一つとし、レポートにまとめて提出させること、加えて授業の中で小グループに分かれて栽培状況や情報交換を行うことにしました。再生野菜については、教職員も学生に手本を見せようと一緒になって取り組みました。提出された授業ノートや課題レポートの中には想像以上に大きな教育効果があったことを示唆するものもあり、教育プログラムとしての新しい可能性を見出すこともできました。

    「教育農場の今Part1」より
    「教育農場の今Part4」より
  3. 恵泉キュウリプロジェクト 'レスキューリ':
    授業のためにタネから育てられた貴重な有機栽培のキュウリ苗は約350本。しかし、キュウリはこまめな管理を必要とするため畑に植えるのは難しいと思っていた矢先、大学近くで街づくりに関わっている人たちとの交流の中で、キュウリの里親プロジェクトを思いつきました。学生に代わって近隣住民や多摩市内の農業者に里親になってもらおうというもので、100人以上からの申し込みがあり全ての苗の里親が見つかりました。栽培の様子はSNSなどで発信されており、授業の中でも紹介しました。キュウリを通じて地域とつながる、恵泉の園芸の可能性がここでも広がりました。今後が楽しみです。

    恵泉キュウリプロジェクト「教育農場の今Part5」より
    恵泉キュウリプロジェクト「教育農場の今Part8」より
  4. キュウリ以外は教職員が植え付け。今年は有機+超省力栽培を実践中
    例年栽培しているキュウリ以外の作物6種類は全て、学生に代わって教職員が予定通りの畑の場所に植え付けました。しかし、ジャガイモの芽欠き、土寄せもせず、サツマイモはウネも立てずに雨が降るのを待って植え付けました。夏休みには草を育てて、土づくりに生かしている本学の畑でも、草丈が作物以上になってしまうと生育不良になってしまうため、繁茂しやすい雑草や背が高くなった雑草は刈り倒し、竹チップや剪定枝でマルチをしました。しかし、いずれも職員頼み、最低限の管理だけを行うことに決め、今年は超省力栽培に挑戦しています。

    サツマイモ「教育農場の今Part8」より
    サツマイモとショウガ「教育農場の今Part8」より
  5. 恵泉草花検定に向けた学びに加えキャンパスのガーデンについても紹介
    生活園芸Ⅰの授業では毎年恵泉草花検定5級にでてくる草花について学び、試験を行っています。今年はこれに加えて、キャンパスのガーデンの特徴についてもスライドで紹介しました。キャンパスの花壇もまた、今年は、最低限の維持管理でどこまでできるか模索中。農場だけでなく花壇でも自然と共生した草花栽培に取り組んでいることを知ってもらうことが出来ました。入学式もできず、ほとんどキャンパスに来たことがない1年生にとって、スライドによる「キャンパスの四季」は大学の雰囲気を知る良い機会になったようです。

    「キャンパスの四季」より
  6. 秋学期開始前に行う9月の集中授業に向けて準備中
    現在、NHKテキスト『やさいの時間』で「週1から始めるオーガニック」と題した、生活園芸Ⅰの授業の取材記事が連載されています(2020年4・5月号~)。NHK出版のご厚意でこの記事も教材として用いています。教育農場における野菜の栽培の様子や特徴が分かりやすい文章と美しいイラスト入りで描かれていることから、学びを深めるために大いに役立っていることと思います。
    現在、私たちは秋の集中授業に向けて準備を進めています。農場の様子を見てもらい、土中貯蔵中のジャガイモやドライフラワー用のムギワラギク、センニチコウを収穫するためです。1日1クラス、合計8日間、1クラス40~50名と比較的人数が少ないとはいえ、新型コロナ感染症対策と熱中症対策を万全にして、実習を行うために、慎重に検討を重ね、準備を進めています。日々、感染者が増えている今、先行きは不透明ですが、秋学期は1回でも多く、農場で実習ができることを祈っています。そして今、改めてオンライン授業であってもこうして「生活園芸」の授業を守り続けることが出来たことに対して感謝しています。

    NHKテキスト『やさいの時間』8・9月号
    「教育農場の今Part8」より
    ドライフラワー用ムギワラギクとセンニチコウ