8月に改めて恵泉の平和教育を考える

2019年08月19日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

厳しい暑さが続いておりますが、皆様、お障りなくお過ごしでいらっしゃいますか?

8月は各地で平和の祈りが捧げられています。
世界のさまざまな場で平和が脅かされている昨今です。平和とは何かを一人ひとりが真剣に考える時を今、改めて迎えています。

恵泉女学園は1929年に、一人のキリスト者河井道の平和への篤い思いから設立された学園です。そして、恵泉女学園大学は、1988年の設立以来、河井の理念を女子の高等教育機関である女子大学として確かに受け継ぎ、平和教育を大切に紡いでまいりました。

本日は昨秋、学園の史料室がまとめた恵泉女学園大学の平和教育について、その一部をここにご紹介させていただきます(以下、【史料室だより第24号】2018年11月3日から引用)。

「平和研究入門」に見る恵泉女学園大学の平和教育

学園長 中山洋司

恵泉女学園大学の平和教育の源は、創立者河井道の信仰に端を発する。キリスト教の一信徒河井道は、第一次世界大戦後のヨーロッパを歴訪した。その惨状を目にし、「戦争のない世界を作るためには、キリスト教精神を基に、世界に開かれた人間、世界平和に貢献する女性を育てていくことである」との理想を持って恵泉女学園を創立した。高等部・留学生科・専門学校・短期大学と発展したが、第二次世界大戦中も、その後の年月も平和を希求する姿は変わることはなかった。

1998年に大学が開学し、初代学長村井資長は、第一回入学式式辞で次のように述べた。「恵泉女学園大学を開設したのは、真の平和を担う、女性の学問探求の場を造るためだったのです。(中略)創立者、河井道先生の祈り、それは皆さんが真の平和を担う女性として育つことです。」そして恵泉女学園大学を、平和を目指す女性の大学であると位置づけ、平和を学問として研究していくことを本格化した。

当初科目名は、「平和学」であったが、1992年に「平和研究入門」へと変更され今日に至っている。さらに学園は、平和文化研究所(1997年)、大学院平和学研究科(2009年人間社会学研究科より名称変更。日本で初の平和学修士号授与)、花と平和のミュージアム(2014年)を開設し、より一層平和教育を充実する方向へと歩んできている。
大学を開学して30年。平和研究入門は、他大学にない次のような特色を包括しながら、現在も進展している。

  • 平和研究入門を必修としたことは、国際機関等で活躍する人材養成を目指すだけでなく、平和に貢献する市井の市民を育成することを意図している。
  • 自分達の暮らしにある身近な事例から地球規模の問題まで、多彩な内容を扱い、机上の学習で終えるのでなくフィールドに繋がる体験を重視している。
  • 研究分野の個性を大事にしながらも、共通項目として四原則(①非暴力の徹底 ②直接・構造的・文化的暴力を立体的に ③最も底辺に置かれた人の視点 ④歴史的背景)で授業を構成する。

これまで担って下さった諸先生の歩みを土台に、現在大学は大日向雅美学長のもと、「生涯就業力」育成を教育目標の中心として掲げている。生涯就業力とは「何があっても、いつどこにあっても、自分らしい目標と希望を失わず、しなやかに凛として生きる力」を意味し、そのために「基礎的な知識・理解・技能」と「現状を把握し、たくましく解決し続ける力」、そして「他者と共に歩み、共に生きていける力」を養うことを大切な要件としている。「他者と共に歩み共に生きていく」、これこそが平和への道である。

恵泉女学園大学の平和教育がさらに深さを増し前進していくようにと願っている。

「平和を実現する人々は幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる。(マタイによる福音書5章9節)」

【史料室だより第24号】は、この後、<恵泉女学園大学開学と「平和学」><「平和学」から「平和研究入門」へ>と続きますが、そちらはこちらをクリックしてご覧ください。

なお、巻末に本学の平和教育を受けた卒業生たちの声も掲載されています。
その中の一人の声をご紹介いたします。

大学の授業は、現場(フィールド)での学びの機会が多く設けられていた。またNGOや平和活動などに実際に関わっている先生方の講義はリアリティがあった。チュニジアへのFSを決めた年にアメリカ同時多発テロ事件が起きたことが忘れられない。FSは無事に実施されたが、日々、ニュースで報道される「テロリスト」とされる人々と、私がチュニジアで出会った穏やかなムスリムの人々とのギャップに、人種や国籍、宗教といったカテゴリーで一緒くたに判断するのではなく、あくまでも個の人間としてとらえることが大切なのだと学んだ。異なる文化・社会的背景を持つ人々の間に身を置き、マクロではなくミクロの視点で、個人として一つ一つの物事や出会いを経験できたことは、本当に貴重だった。

(特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン 蘇畑光子 2004年度卒)

冒頭でご紹介した中山洋司学園長のメッセージにもあるように、本学の平和教育は、国際機関等で活躍する人材養成を目指すだけではありません。むしろ、平和に貢献する市井の市民を育成することを大切にしておりますが、それが確かに学生たちに受け継がれていることは、卒業生の蘇畑さんの感想からも読み取れるように思います。

毎年、暑い夏を迎える度に私は谷川俊太郎氏の詩「生きる」を読み返しています。
のどの渇きを覚え、木もれ陽をまぶしく思い、音楽や絵などの美しいものに出会う幸せを味わい、誰かの手のぬくもりを感じながら、あるときは泣き、怒り、そして笑いあえる日々の大切さを思います。若い世代や子どもたちが、そんな日常を当たり前のように生きることができることを願いたい。そのために本学の平和教育を守っていきたいとの思いを強めております。