私の考える「生涯就業力」~その4~

2019年07月08日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

"私の考える「生涯就業力」シリーズ" 4回目の今回は、FDSD委員会からの寄稿です。

FD・SD委員会とは、「大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため、教職協働で、必要な知識と技能を習得し、その能力及び資質を向上させるための研修を企画運営する」委員会です。

毎月1回、研修会を開催していますが、下記の写真は6月の研修会の模様です。

今月のテーマについて委員から説明
職員SDの結果について事務局長からの報告
グループディスカッションについての報告
グループディスカッションについての報告

今年度の委員会メンバーは楊志輝先生(委員長:平和研究)・常葉美穂先生(教育学)・青木良和先生(経営論)・野間田せつ子さん(大学事務局次長)です。野間田さんには1回目の学長室メンバーの回で登壇していますので、今回は他の3人からの寄稿です。

楊 志輝(平和研究)

中国の北京大学を卒業した翌年の1990年に私費留学生として来日し、大学院時代の研鑽を経て、現在は日本の政治外交、日中関係を研究しつつ、恵泉で日本の若者とともに国際交流、多文化共生に努めています。

私は、自らの「殻」を破り脱皮を繰り返し、絶えず自他を成長させる力が「生涯就業力」につながるのではないかと考えます。そして、恵泉教育における「国際性」、グローバル視点の平和教育と充実した海外プログラムが、まさに「無知の知」を獲得し各人の成長を促す一助になっていると思います。
十年ほど前、日本内外でいわゆる「反日」、「嫌中」のムードが漂うなか、平和教育を受けた学生たちが中国短期FSに参加しました。その折、中国の学生と国際問題を議論したり、現地の日系企業を訪ねたりして、見聞を広めただけでなく、メディア情報や先入観に囚われず冷静に等身大の相手を見つめ、ともに歩む貴重な経験も得ました。第2外国語として中国語を選び語学文化研修や留学に参加した学生の多くは、グローバル社会に通用する語学力を培うことにとどまらず、様々な場面で自分らしくしなやかに生きる力も手にしているように思えます。自分を必要とする企業に就職できた学生、中国の大学院に進学した学生、日本の会社を辞めて上海で新天地を切り開いた卒業生、まさによい事例でしょう。
国際交流担当の一教員として、絶えず脱皮を遂げ社会に羽ばたく学生たちの姿はいつも頼もしく思いますが、今度は自分たちがいかに「殻」を破り、共に成長できるのか、FDSD委員会の一員として真価が問われているように思います。

写真は、恵泉の協定校・上海杉達大学で実施された中国語学文化研修の様子(太極カンフー扇)です。

常葉美穂(教育学)

大学院時代に英国のNottingham(ノッティンガム)という所に留学していました。
緑にあふれた素晴らしいキャンパスでのびのび過ごしました。ここ恵泉のキャンパスも四季の自然が美しく、とても心が安らぎます。

生涯就業力の重要な要素として、「言葉を使って考えたり表現したりする力」があると思います。色々な人と関わりながら、また、様々な状況の中で自分らしさを模索しながら自分の人生を生きていく上で、基盤となるようなとても大切な力です。
私は教育をテーマに英語コミュニケーション学科で1~4年のゼミを担当していますが、学生の皆さんにはぜひ、「自分の言葉で考え表現する経験」を積み上げて行って欲しいと考えています。ネット検索すれば他の誰かの「言葉」がすぐに手に入る時代です。ですが、だからこそ、自分で物事にじかに向き合い、そこで何かをとらえ、どんなにつたなくても良いから自分の言葉で表現し続ける学びが、とても重要なのではないかと考えています。そのような経験を積むことで、「自分の人生を自分の足で歩んでゆく」という実感と自信も、得られてくるのではないでしょうか。

青木良和(経営論)

変人・小泉純一郎と同じ横須賀高校卒、一橋大学卒業後、富士フイルムに40年間勤務、写真フイルム・産業材料・デジカメ・化粧品と様々な事業の前線で勤務、趣味は、山登り・水泳・スキー・能・オペラ・絵画鑑賞

2019年春学期の私の授業は、ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンさんが日経新聞に書かれた『人生どの段階でも学び』という記事からスタートしました。そこには、こういったことが書かれていました。
「(人生100年時代をむかえ)人生のどの段階でも学習を続ける姿勢が重要で、常に自分のスキルを磨き続ける習慣を人生の前半のうちに身につけることが必要になる。」
まさに、恵泉女学園がビジョンとしてかかげる「生涯就業力」と同じ考え方なのです。リンダ・グラットンさんの書かれた『LIFE SHIFT -100年時代の人生戦略-』には、「人生100年時代、就業時の所得の10%を貯蓄し、リタイア後に1/2に生活費を落として生活するとしたら、何歳まで働く必要があるか」という問いかけがあり、その答えは80歳だと衝撃的な話が語られています。
<大学で学ぶ→就業する→ハッピーリタイアで老後を過ごす>という「Age」と「Stage」が一致した時代ではなく、これからは「Multi Stage」の時代で、何歳になっても<学ぶ>ステージがやってくると語り、100年時代に生き抜くためには3つの資産として、①スキル・知識・経験・仲間といった「生産性資産」、②健康・家族・パートナー・友人といった「活力資産」、③多様性に富んだ人的ネットワークという「変身資産」をあげています。資産は時代とともに陳腐化します。生涯、鍛え直さねばなりません。恵泉女学園が目指す「生涯就業力」とは、まさに、この3つの資産の礎になるものと私は考えています。