恵泉ディクショナリー

オバマ政権の中東政策国際社会学科

[おばませいけんのちゅうとうせいさく]  Middle Eastern Foreign Policy of the Obama Administration

オバマ政権の中東政策とは

ブッシュ政権によるイラク戦争の失敗に対する国民の不満を主要な背景として登場したオバマ政権(2009年1月大統領就任)は米軍のイラク撤退を進める方針であるが、これは、実は、ブッシュ前政権後期の政策の継続という側面も強い。一方、9.11同時多発テロの首謀者・アルカイーダを匿ったアフガニスタンにおけるタリバン勢力との戦いは正当な戦争と位置づけられ、米軍増派が決まったが、アフガンは「オバマのベトナム」になるのではないかと危惧されている。

ただ、オバマ政権の登場で米国の中東外交のトーンが一変したことも間違いない。特に6月のカイロでのオバマによる演説では、コーランを引用しつつ、ムスリムに対し相互和解を呼びかけ、たとえば、敵対国・イランに対し、異例にも、米国の過去の誤り(アイゼンハワー政権によるモサッデク政権転覆)を率直に認めた。ここに見られるオバマ政権の一般的な傾向は、軍事力の行使を最後の手段として留保しつつも、ブッシュ政権のように善悪二元論的思考に陥ることなく、敵対国との対話を試み、多国間主義的な枠組みや外交による国益の調整を通じて合意を形成しようとする外交姿勢である。オバマ政権は、このような外交的立場から、中東和平(パレスチナ問題)から南アジアまでの錯綜する諸課題を関連づけながら包括的に解決したい考えである。

ブッシュ政権によるイラク攻撃の理由として大量破壊兵器問題が挙げられていたように(戦後、結局、大量破壊兵器は発見されなかった)、オバマ政権においても、イランの核兵器開発疑惑を中心とする核拡散の防止は中東における主要な関心の1つである。オバマ政権は「核兵器のない世界」を長期的な理想として掲げつつ、ロシアとの間でさらなる長距離核兵器の削減で合意し、核拡散防止に向けた米国の取り組みに信憑性を確保しようとする構えだが、イランを敵とするイスラエルの核保有を黙認する姿勢は米国の政策のダブル・スタンダードを際立たせてしまっている。オバマ政権は、ロシアが強く反発していたポーランドとチェコへの米国のミサイル防衛の設置を棚上げすることで、ロシアからイランの核疑惑問題やアフガン問題での協力を引き出したい意向と思われるが、大統領選挙をめぐるイラン内政の混乱も相まって、イランとの関係改善は容易ではないであろう。中東和平交渉も同様に前途多難が予想される。和平の一方の主役であるパレスチナ自治政府は深刻な分裂に見舞われ、リーダーシップの不在状態である。イスラエルに対しては、西岸などのイスラエル占領地域へのユダヤ人入植の完全凍結を強く求めているが、イスラエルのネタニヤフ・タカ派政権はこれに抵抗しており、むしろ敵国・イランの核疑惑の解決を優先したい意向である。オスロ合意以来、拡大し続けてきたユダヤ人の入植は将来のパレスチナ国家の樹立をますます困難にしており、オバマ政権による中東和平の仲介が停滞していった場合、「アパルトヘイト化」しつつあるヨルダン川西岸や「閉鎖」で閉じ込められてしまったガザに居住するパレスチナ人の失望を招き、中東和平の実現は空前の灯火となるであろう。

2009年12月24日 筆者: 漆畑 智靖  筆者プロフィール(教員紹介)

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