ギリシャは何故破産しないのでしょうか? 第2回 英語コミュニケーション学科

2021年12月20日
 ゼミ/授業名:桃井ゼミ

現在の私は「英語コミュニケーション学科」の教員ですが、元々、写真家として、ドキュメンタリー作家として、世界140カ国を訪れ、様々な社会問題の現場【紛争、戦争、環境破壊、飢餓など】を取材してきました。

これらの経験を基に、今「世界はどのように動いているのか?」「地球はどのような状況にあるのか?」を学生たちに伝えています。それが私の担当する「表現力実践講座」や「国際情勢論」などの授業要旨です。

グローバル化した現在の世界では、国や人種、文化や歴史の違いを越えた高度なコミュニケーション能力が求められています。そうした能力の獲得を目指した恵泉の「英語コミュニケーション学科」では、「英語」+「コミュニケーション」というキーワードで、多彩な経歴を持つ教員が、きめの細かい教育を実践しています。

私が担当するこのブログでは、世界の取材の現場で多様な人々と出会い、交流を重ねた経験から見えてきた「コミュニケーション」を改めて考察します。

ギリシャは何故破産しないのでしょうか? 第2回

ギリシャが破産しない理由を理解するためには、ヨーロッパの基盤文化が「古代ギリシャ文明」であることを十分に知っておく必要があるでしょう。

今から2300年ほど前、現在のギリシャに誕生したアレキサンダー大王は、地中海世界からアジア(現在のインド)までを征服し、ギリシャ文化とオリエント文化を融合させた「ヘレニズム」と呼ばれる文化を築き上げました。

その後、古代ギリシャの高度な文明は、ローマ帝国に引き継がれ、ヨーロッパ世界の礎となったのです。

古代ギリシャの影響は、言語にも及んでいます。

ヘレニズム時代の地中海世界では、共通語が「コイネー」と呼ばれる古代ギリシャ語だったのです。

その影響はキリスト教も強く受けました。

キリスト教の聖典でもある「旧約聖書」は、元々ユダヤ人が信仰するユダヤ教の聖典で、彼らの言葉である「ヘブライ語」で書かれていました。

しかし、イエス・キリストが誕生してからの出来事などを記した「新約聖書」は、すべて古代ギリシャ語で書かれているのです。つまり、ユダヤ人だけで信仰されてきたユダヤ教という一神教が、イエスの死後、当時の共通語(=古代ギリシャ語)で書き記されたことで、多くの人々に理解され、広まっていったのです。

キリスト教の世界宗教化においては、間違い無く言葉が重要な要因になったわけです。

少し横道にそれますが、新約聖書の中で、最初に書かれたと考えられているのが、パウロという人が西暦50年頃に書いた『テサロニケの信徒への手紙一』という手紙(書簡)で、テサロニケという当時の大都市の教会関係者にパウロが宛てたものです。

テサロニケ(現在の表記では「テッサロニケ」)は、ヘレニズム下のギリシャ(当時の国名は「マケドニア」)において、最も大きな都市のひとつでした。

イエスが主に使っていた言葉は「アラム語」で、当時貧しかったガリラヤなどの地方において普通の人々が使っていた言語です。

一方、イエスがキリスト(救世主)であると説いたパウロのいう人は、ギリシャ語が堪能で、古代ギリシャの大都市(=多様な文化や人々が交差する空間)において、イエスの存在を新しい概念として伝えたことで、キリスト教は世界宗教への一歩を踏み出したのです。

担当教員:桃井 和馬

恵泉女学園大学特任教授 写真家、ノンフィクション作家 これまで世界140ヵ国を取材し、「紛争」「地球環境」「宗教」などを基軸に「文明論」を展開している。テレビ・ラジオ出演多数。第32回太陽賞受賞。公益社団法人「日本写真家協会」会員。主要著書に「和解への祈り」(日本キリスト教団出版局)「もう、死なせない!」(フレーベル館)、「すべての生命(いのち)にであえてよかった」(日本キリスト教団出版局)、「妻と最期の十日間」集英社、「希望の大地」(岩波書店)他多数。 大学では、「表現力実践講座」「国際社会論」「国際情勢論」などを担当。

桃井 和馬