恵泉ディクショナリー

ユートピア歴史文化学科

[ゆーとぴあ]  Utopia

ユートピアとは

「ユートピア」という語は、本来「どこにもないところ」という意味をもつ。だが、この言葉を発明して世に広めたルネサンス人トマス・モアは、理想世界というつもりで用いた。今日でも、一般には、「架空の理想世界」という意味で使われている。空想の産物といえばその通りであるが、空想も現実から出発するほかなく、現実が違ってくれば、空想もまたそれに見合ったものとなる。要するに、ユートピアも時代の流れのなかにある。

さて、モアの著書『ユートピア』であるが、発表された1516年当時は「大航海時代」にあたったから、絶海の孤島に舞台が設定された。そこに示された理想世界が都市であったことは、興味深い。ヨーロッパにおいて文明とは何よりも都市のものであったからともいえる。ちなみに、都市(city)と文明(civilization)は同語源である。

モアと同国人にウィリアム・モリスがいる。19世紀の人であるからモアからすればずっと後世を生きたのだが、1890年に『ユートピアだより』という作品を刊行している。ここで注目したいのは、モリスの描く理想世界が都市ではなく、田園であったことである。都市すらも田園化した姿で描かれた。

モアもモリスもロンドンの生まれであったが、都市の規模が違っていた。モアの頃のロンドンは人口6万人程度の小さな町であった。だから、モアが「都市」としてイメージしたのも、その程度であった。一方、モリスは人口数百万に膨張していくロンドンを目にしている。そろそろ、反都市(=反文明)の思想が芽生え始めていた。

付け加えれば、こうした発想の転換から、自然と文明の融合を目指す「田園都市」の構想が誕生した。恵泉女学園大学が位置する多摩丘陵地帯は、まさに田園都市である。

2010年06月02日 筆者: 高濱俊幸  筆者プロフィール(教員紹介)

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