イスラーム社会における仏教・ヒンドゥー教の石造建築物

2012年09月10日

インドネシア中部ジャワ州にあるボロブドゥール寺院遺跡群とプランバナン寺院遺跡群は、ともに1991年に文化世界遺産に登録された。
ボロブドゥール寺院遺跡群は、ジョクジャカルタ特別州の州都ジョクジャカルタの北西約40kmにある大乗仏教の遺跡であり、ボロブドゥール寺院、ムンドゥッ寺院およびパオン寺院の三つで構成されるが、周辺には多くの仏教関係の遺跡が散在する。シャイレーンドラ朝の790年代に建設が始められ、830年ごろに増築も終わったとされている。その後は、当時インドネシアを統治していたイギリスのラッフルズ提督の命を受けた探検隊によって1814年に発見されるまで、1000年近くもの間、熱帯雨林の土の下に眠っていた。ボロブドゥール寺院は内部空間を持たない高さ約40mにも達するピラミッド状の石造建築物で、一番下の基壇は一辺約120m、第二層から第六層までは方形壇、その上の第七層から第九層までは円形壇という全体で九層の階段状の構造で、仏教の欲界・色界・無色界の三界を表現している。五層の方形壇にめぐらされて回廊の壁面には、1460面におよぶ釈迦誕生にかかわる仏教説話のレリーフが彫られている。さらに、方形壇の回廊の壁龕と円形壇上の釣鐘状のストゥーパ内部には1体ずつ、総計504体の仏像が安置されている。

プランバナン寺院遺跡群は、ジョクジャカルタの東方約20kmに位置する。仏教とヒンドゥー教の石造建築物の一大遺跡群で、中核であるプランバナン寺院は、ヒンドゥー教を信仰したサンジャヤ朝によって856年から900年にかけて建設された。シヴァ神を祀る高さ47mに達するロロ・ジョングラン尖塔を中心に、ヴィシュヌおよびブラフマーを祀るもう二つの大尖塔とそれぞれの神の乗り物を祀る小型の尖塔などから構成されている。ロロ・ジョングラン尖塔の回廊の壁面には、インドの叙事詩ラーマーヤナを題材にしたレリーフがほどこされている。この遺跡群は、カラサン寺院やプラオサン寺院などの多くの仏教寺院跡が点在する。
ボロブドゥール寺院は、1973年から10年間にわたるユネスコからの資金協力による修復が進められ、その後もインドネシア政府の資金によって継続されている。他方、プランバナン寺院のロロ・ジョングラン尖塔などの修復もインドネシア政府の予算によって実施されている。さらに、日本のODAの有償資金協力約32億円によって、ボロブドゥール寺院とプランバナン寺院の周辺が史跡公園として整備された。この公園整備では、もともと住んでいた人々の住居の移転と水田などの収用が行われたが、住民による反対運動が発生したことも忘れてはならない事実である。

谷本 寿男(国際協力論)