取り組みの概要

恵泉女学園大学は創設以来、社会的公正の実現(貧困・格差、人権・多文化共生、持続可能な社会などの現代的課題の解決)に向けて、専門的視野と共感能力を持つ市民の育成に努めてきました。この「専門性をもった教養教育」という考えの下で、人間社会学部は外国語・文献知識教育に加えて体験学習を学士課程教育の中核に位置付けています。そして、この体験学習は、学生に課題を実感させることによって、継続的、自発的に問題解決に関わることを目指します。
「フィールドスタディ(以下FS)」と「コミュニティサービスラーニング(以下CSL)」から構成される体験学習は専門科目として組み込まれ、充実した事前・体験・事後の学習が実施されています。実施に際しては他の教育機関およびNGO等との密接な協力関係を築き、プログラムの立案・実施(安全管理を含む)・評価は学部体験学習・FS委員会が統括。教職員の任用にあたっても現場体験を重視してきています。

取り組みの実施プロセス

1.本取り組みの導入経緯と意義

本学は「ボーダレス化する多文化社会における共生」「人間と自然環境の共生」を構築する市民の育成をめざし、1998年人文学部に国際社会文化学科を設置した。学長を中心とした学科開設委員会は、この目的の達成には、知識の修得だけでなく、共生の現場を直接体験して課題を実感し、課題の解決策を考える訓練が必要と考え、海外を主とした体験学習FSを専門科目とし、長期と短期の2種が計画された。1999年に2年生を対象に短期FSが先行して開始され、2000年には3年生を対象とした長期FSが実施に移された。
2001年には国際社会文化学科から分離して人間環境学科を開設し、地域に根ざして「人間と自然環境の共生」を実践する市民の育成を目指した教育を開始した。生活環境をベースにしたより身近な課題を考えるこの学科では、短期FSのフィールドを国内にも広げることとした。2005年には両学科を人文学部から分離して人間社会学部に改組し、CSLを導入した。これにより、体験学習プログラムを人間社会学部が統合的に運営することとなり、学生がローカルな問題とグローバルな問題の関連性と異質性を立体的に理解できる教育プログラムができあがった。

2.本取り組みの実施プロセス

本学が取り組む体験学習は「長期FS」「短期FS」「CSL」(資料表1)から成り立つ。長期FSは、学生を北タイ地域に1セメスター派遣して集中的に現場を体験させるプログラム(資料表2)である。北タイ地域をフィールドとしたのは、アジアを重視してきた恵泉女学園が、北タイ地域に15年以上前から毎年学生ワークキャンプを派遣して人的な関係を築いてきたことによる。他方、短期FSは、専任教員が自分の専門とするフィールドに2週間程度学生を引率して、共生の現場を体験させる集中科目である(資料表3)。
CSLは、福祉、街づくり、資源の再利用、外国籍住民との共生といった地域社会で求められている多様なサービス活動に参加して学び、実社会への認識と自己理解を深める科目である。
いずれも事前学習科目を伴い、体験学習・FS委員会によって総合的に企画・運営・評価されている。

取り組みの実施プロセス本取り組みの実施プロセスは左図のとおり。プログラムの中核は事前指導・体験学習の実施・事後のフォローアップである。それを、本学の理念に対応した必修教養科目や専門科目、課外活動が補完する。また、本図で示したように、プログラムの流れと継続性が、個人arrowと組織arrowの双方のレベルにあることが特徴と言える。本取り組みを実施する過程で問題となったのは、費用負担である。大学自体にとっても、学生にとっても経済的負担が大きく、学内合意を得ることが容易ではなかった。大学は、学生奨学金の貸与と私立大学教育研究高度化推進特別補助金の獲得で対応してきた。また、9・11事件以降の国際的な政治・社会情勢の不安、鳥インフルエンザ等の発生により、学生や保証人などの間に不安感が高まり、参加を躊躇する学生が増加した。大学は、委員会が主体となって情報収集・分析を行ない、後に述べる安全管理体制を確立し、学生や保証人への十分な説明を果たしてきた。なお、本取り組みの内容と意義、安全管理体制をパンフレット、ビデオ、報告書等の作成を通じて、学内外に周知徹底を図り、コンセンサス作りや不安解消に努めてきた。

3.実施体制

実施体制左図に示したように、本取り組みは体験学習・FS委員会を中核として、学部全体での実施体制を確立している。この取り組みは本学部の教育システムの中核に位置するため、教学上の責任を持つ教務委員会の下に体験学習・FS委員会を設け、全体を統括している。 またその実施のために、体験学習FS室を設置し、学生、職員、教員の間を結んでいる。

取り組みの特性

1.教育効果をあげるための工夫

教育効果をあげるために本学がとっている工夫は以下のとおりである。
1)体験学習を事前学習・体験・事後学習の各科目で体系的に構築している。(資料表1)
2)体験学習を専門科目として位置づけていること。体験を単なる体験として終わらないために、関連する専門科目が豊富に用意されている。
3)外国語科目を含む教養科目と強い連携関係が保たれている。大学の基本理念に対応する1年次必修科目が体験学習の導入となる。また、アジア諸語を中心にフィールドに対応させて第2外国語が多数開講されている(資料表4)。
4)FSとCSLを併置したこと。相互の連携・補完が確保されている。
5)長期FSの実施にあたっては、特に以下の工夫を行っている。

1.危機管理マニュアルを作成し、これに則ってプログラムを実施している。
2.情報収集に努め、適切な判断をするようにしている。外務省の渡航情報には十分配慮しながら、各教員の有する独自のネットワーク及び現地のカウンターパート(NGO団体・教育機関等)からの情報も判断に加えている。
3.プログラム実施中は、現地で利用できる携帯電話を必ず携行し、定期的に大学への連絡を行っている。また、必要に応じて補助者を同行させる。
4.実施期間中は大学に危機管理体制(緊急連絡網・緊急時対応資金・応援者待機、教職員携帯用資料等)を敷き、緊急事態に備えている。
5.全学に向けて「海外渡航における危機管理」講座を事前に実施している。

2.人間的成長を促す工夫について

本学部の教育目的である「共生」は他者やその環境、文化に配慮することで可能となる生き方である。その意味において本取り組みは、人間関係の形成、他者の視点に立つことなど、学生の人間的成長を促すための活動に他ならない。具体的な工夫としては以下の4点があげられる。(学生の成長の様子については 資料表5)
1)長期FS、CSLでは参加者各人が、対象の人々と長時間ともに過ごし、多くの場合寝食をともにすることにより、緊密な人間関係を築く。
2)短期FSでは、教員及び参加学生が期間中行動をともにすることで、緊密な人間関係を築くと同時に、振り返りの機会を多く持つ。
3)社会的不公正や社会的弱者の立場だけでなく、対象の人々の豊かさに目をむける。
4)専任教員が体験学習を担当することで、同じ教員がFS・ゼミ・卒論と一貫して学生に関わり、継続的教育の可能性を保障している。

3.現代的課題への対処について

中央教育審議会答申『わが国の高等教育の将来像』はその冒頭で、21世紀を「知識基盤社会」と位置づけ、「精神的文化的側面と物質的経済的側面の調和の取れた社会を実現し、他者の文化(歴史・宗教・風俗習慣等を広く含む)を理解・尊重して他者とコミュニケーションをとることのできる力を持った個人を創造することが、今後の教育には強く求められている」と謳っている。また、「国連持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」実施計画では持続可能な社会の基礎を「世代間の公平、地域間の公平、男女間の公平、社会的寛容、環境の保全と回復、天然資源の保全、公正で平和な社会」としている。
FSは他者の文化の中に身をおき、その文化を理解するとともに、そこに存在する現代的な問題にともに関わり、解決策を見出そうとする活動である。また、CSLは高齢者や障がい者の施設、子育て支援施設等における活動への参加である。これらの取り組みは、中央教育審議会答申やESD実施計画に示された現代的な課題に対処することに他ならない。

取り組みの組織性について

1.本取り組みへの教職員・学生の関与

長期FSへの参加者は6年間で延べ66名、短期FSは7年間で40プログラム460名に上る。長期参加者は学部学生の5%程度、短期では40%程度である。総応募者数では長期7%、短期50%程度である(資料表6)。就職活動の早期化により3年後期の長期FS参加を躊躇する学生が増えてきたことから、2005年度より、2年次から参加できるように制度を改めた。CSLは2005年より開始し、初年度は1年生15名が多摩市近郊や居住地域にある福祉施設や児童館で活動を行った。
人間社会学部では学部全体の教育研究姿勢が本取り組みの目的に合致しており、本取り組みに積極的に関わることができる人材を多く任用してきた。専門研究において現場をもって実践的に関わる教員はFSを担当しやすく、31名の専任教員中18名がFS・CSL担当経験を持っている。

2.取り組みの共有化について

取り組みを大学全体として共有するために、以下の活動を実施している。
1)活動報告書の作成:プログラムごとに報告書が作成され、学内外に配布され、参加者自身の活動の振り返りと体験の共有を促進している。
2)長期FS参加学生による活動報告会:本学キャンパスで開催。本学学生のみならず、近隣の住民、他大学の学生、学生の保証人なども参加する。マスコミに取り上げられることも多い。
3)学園祭等学校行事での発表:参加学生がビデオやパワーポイントを活用したプレゼンテーションを行うほか、活動内容の紹介コーナーを設置してビデオ上映やパネル展示体験を行い、学内外に成果を伝え、経験を共有することを試みている。
4)フェアトレードバザールの開催:体験学習先の組織や団体を紹介し、社会貢献を行うために、体験学習先などで制作している商品を仕入れ販売する「フェアトレードバザール」を企画している。実施にあたって大学は学生に対して小額融資(マイクロクレジット)を行い、学生はこの資金をもって商品を購入した。フェアトレードの基礎知識を持つ教員がカリキュラム外でこれを指導している。

3.その他の活動

大学は以下の活動を行って本取り組みを支援している。
1)チェンマイ大学との協力協定の締結:学長が相互に訪問しあい、協力協定を締結している。この協定の下で長期FSは実施され、逆にチェンマイ大学から院生1名を受け入れている。また、本取り組みを担当するチェンマイ大学教員を毎年招聘して大学院で「フィールド調査法」の集中講義を開講している。この科目は学部生にも開放されている。
2)タイワークキャンプ:大学開設前から短期大学が実施してきたタイワークキャンプを引き継ぎ、実施している。北タイ地域の村を毎年30名以上の学生が訪問し、20年以上交流を続けている。長期FS参加者はこのワークキャンプ体験者が多い。
3)上の学生が訪問し、20年以上交流を続けている。長期FS参加者はこのワークキャンプ体験者が多い。
3.恵泉アジア協力会:教職員の任意団体として恵泉アジア協力会を組織し、チェンマイのパヤップ大学に卒業生を派遣してきた。これを発展的に解消して、現在は大学から卒業生1名をパヤップ大学に日本語教師として常時派遣している。
4)奨学金の貸与:1999年のFS開始時からFS等の海外体験プログラム参加者を対象とする奨学金を設けて学生の参加を奨励してきた。短期FSについては参加費用の6割を条件として貸与している。長期FSに関しては貸与の他に年間20万円を上限とした給付も行っている。

取り組みの有効性

1.取り組みの教育効果とその評価方法

本取り組みの長期的な目的は「共生を実践する市民の育成」にある。これを検証するためには卒業後の生き方までも視野に入れての検証が必要になってくる。卒業後、青年海外協力隊員としてアフリカに赴任し、現在はJICAジュニア専門員の者、日本国際ボランティアセンターから派遣されてイラクの緊急医療支援にあたっている者、国際NGOの職員として活躍する者などを輩出しており、本取り組みは一定の成果をあげているといえよう。一般の学生および卒業生の継続的な活動については、卒業生からの連絡などで活動が増大していると教職員ともに感じているが、具体的数値を把握するに至っていない。卒業生の活動状況調査を実施する予定である。
短期的には学習意欲の高まり、その結果としての成績の上昇が期待されている。事前・当期・事後のGPAを集計してみると成績に大きな変化はないが、標準偏差の縮まりが認められる。②で記述しているように、参加者自身は学習意欲が高まったとしているが、成績の上昇については、客観的な評価方法の確立には至っていない。卒業論文は選択性であるが、本取り組み参加者の卒論執筆率は高く、評価も高い。学習意欲の高さと評価することができよう。

2.取り組みに対する学内の評価

2003年4月に4年間のFS全参加者に実施した「FSアンケート」によれば、プログラムへの満足度(93%)、社会的関心の高まり(91%)、学習意欲の増大(95%)、考え方、人生観の変化(90%)などに高い数値が得られている。また、参加学生も増大しつつある(資料表6)。
学部内では当初より本取り組みを既定のものとしてその意義を認め、プログラムをより良くするための議論が続けられたが、大学全体でのコンセンサス作りには当初苦労した。しかし、継続的な実施と詳しい情報の提供などにより、宗教委員会主催のタイワークキャンプや人文学部の海外語学研修などで安全管理に本取り組みの手法が取り入れられるようになった。さらに今年度は人文学部でもイタリアでの文化面でのFS的な研修旅行が計画されている。
③取り組みに対する外部の評価
本取り組みは学外からも高い評価を得ている。2001年度の大学基準協会相互評価においても、本取り組みに関連して、①学部教育においてFSを重視し、その関係科目や「生活園芸」等の野外演習科目を設けている点、②留学・海外研修プログラムの充実を図り、タイや韓国などのアジアにも目を向けている点が長所として評価されている。文部科学省生涯学習政策局生涯学習推進課監修『21世紀の生涯学習入門』(2001年)において新しい生涯学習の実践事例として紹介されている。

3.取り組みに対する外部の評価

2003年4月に4年間のFS全参加者に実施した「FSアンケート」によれば、プログラムへの満足度(93%)、社会的関心の高まり(91%)、学習意欲の増大(95%)、考え方、人生観の変化(90%)などに高い数値が得られている。また、参加学生も増大しつつある(資料表6)。
学部内では当初より本取り組みを既定のものとしてその意義を認め、プログラムをより良くするための議論が続けられたが、大学全体でのコンセンサス作りには当初苦労した。しかし、継続的な実施と詳しい情報の提供などにより、宗教委員会主催のタイワークキャンプや人文学部の海外語学研修などで安全管理に本取り組みの手法が取り入れられるようになった。さらに今年度は人文学部でもイタリアでの文化面でのFS的な研修旅行が計画されている。
③取り組みに対する外部の評価
本取り組みは学外からも高い評価を得ている。2001年度の大学基準協会相互評価においても、本取り組みに関連して、①学部教育においてFSを重視し、その関係科目や「生活園芸」等の野外演習科目を設けている点、②留学・海外研修プログラムの充実を図り、タイや韓国などのアジアにも目を向けている点が長所として評価されている。文部科学省生涯学習政策局生涯学習推進課監修『21世紀の生涯学習入門』(2001年)において新しい生涯学習の実践事例として紹介されている。

今後の実施計画

1.教育内容の充実

これまでの活動を継続するとともに、以下の3点を実施して、充実を図る。
1)事前授業「社会調査方法論」の充実。指導内容をマニュアル化して新たにFSを実施する教員が事前準備からスムースに学生指導ができるようにする。そのために、過去の管理事例情報の共有化と事例研究を行う。
2)「FSVI(ステップアップ)」の開設。これまで、各教員のボランタリーな努力によって実施されてきた報告書の作成や振り返りを「FSVI」としてカリキュラムに組み込む。
3)CSLの拡大。2005年導入のCSLをより多様な受け入れ先で発展展開する。これによりFSで経験した課題を身近な場で継続すること、逆に身近な場での活動を国際的な場に広げることが期待される。
4)活動の評価。2006年度及び2008年度にこれまでの取り組みの総合的評価を行う。FS担当者以外に外部委員を委嘱し、内部評価と外部評価を融合させた形の評価を実施する。また、上述のとおり、学生の意識変化を調べるための継続的なアンケート調査を実施する。

2.研究会活動

2004年度から、中央大学、大阪女学院大学、ICUなどと合同で実施している「大学教育における海外体験学習研究会」活動を継続する。以下の調査研究を予定している。
1)活動状況調査・類型化、報告書作成(2006年度)
2)危機管理事例の収集、事例集の作成(2007年度)
3)プログラム評価指標案の作成(2008年度)

3.広報活動

広報活動の更なる充実をはかり、活動を広範に紹介して他大学の参考に供する。
1)活動報告会の実施。毎年実施している活動報告会をよりオープンな形で実施する。
2)内容紹介パンフレットの作成。内容紹介ホームページの充実。報告書作成。
3)国際シンポジウム(2007年度)の開催。体験学習受け入れ先・提携先を招いて、受け入れ側の視点から体験学習を総括する。

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