野生動物の楽園への長い道のり‐イエローストーン

2012年10月15日

アメリカ北西部、ワイオミング州、モンタナ州、アイダホ州の3州にまたがるアメリカ最大規模の自然公園。間欠泉などの熱水現象、大草原の景観、野生動物の宝庫として、1872年世界初、アメリカ初の国立公園となった。(州立公園となっていたヨセミテはおくれて国立公園になっている。)岩肌が黄色いことから名の由来となったイエローストーン川が大渓谷を刻む。

野性動物の宝庫で知られるイエローストーンを舞台にした熊の物語を紹介しよう。作者は『狼王ロボ』などの作品で知られるアーネスト・T・シートン。開拓地で滅び行く動物たちを主人公に大雄雄しく生きる姿、人間にも劣らない絆で結ばれた様子を描き出し感動をあたえた作家である。1897年シートンはイエローストーン公園内の熊がホテルのごみ捨て場に現れると伝え聞いて観察に訪れた。そこでうまれたのが『ジョニー』(1902)という好奇心旺盛な子熊を主人公にした話。この作品は動物の親たちが森の掟を子に伝授する姿、あるいは困難を自分で切り開いていく姿を描いたシートンの代表作品とは明らかに異なる。ジョニー(シートン画)は母親とゴミ捨て場に通ううちに病気になっていくのである。足を引きずる姿に親も見離し、最後はホテルの台所で働く女性の世話を受けその腕に抱かれて死んでいく。咳を続ける子熊の姿は人間から病気をうつされたと思わせ、野性動物と人間の接触を描いた問題作なのである。

しかしこの作品は忘れられ、イエローストーンのごみ捨て場は1920年代に客寄せのアトラクションとして、三千人近く収容できる観客席まで作られた。安心して熊を見学できる目玉観光スポットになった。(写真)50年代には高速道路を使い、全米各地からマイカーで訪れる観光客に餌をねだる園内の熊たちが人気となった。こうした管理法は1970年代以降、レイチェル・カーソンが引き金となった環境運動が盛んになった時期に転換期を迎える。餌付けの反省の上に立ち、生態系を保護する最先端の運営をめざす国立公園に生まれ変わるのである。山火事も放置して自然の再生を待つイエローストーン公園の管理はいまでは世界の自然公園の手本となっている。しかし、その歴史に刻まれた生態系破壊と商業主義は先住民文化破壊とともに、アメリカにおける自然遺産を考える上で避けて通れないだろう。

杉山 恵子(アメリカ史)

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