人類文化史上、最大の絵画!?(ナスカおよびフマナ平原の地上絵、ペルー)

2013年07月15日

マチュピチュに次いで日本人に人気が高いアンデス文明遺跡といえば、ナスカ、とくにその広大な砂漠の台地をキャンバスにして描かれた巨大地上絵であろう。あまりの大きさに上空を飛行機が飛ぶようになるまで千年以上も発見されなかったといわれる地上絵だが、その不可思議な線の存在については、インカ帝国を征服したスペイン人による1550年の記録の中ですでに言及されており、またこのナスカの地上絵が20世紀考古学史上最大の発見のひとつとして世界中の注目を浴びるきっかけとなった1939年のアメリカ考古学者ポール・コソックによる偶然の発見の以前から、ペルー人飛行士たちの間では不可解な線としてよく知られていたらしい。

ナスカの地上絵を製作したと考えられるナスカ文化は、ペルー南海岸のナスカ川とイカ川の二つの河川流域を中心に紀元前100年~後700年頃に繁栄した、人口5万人程度の比較的小規模な社会で、アンデス文明形成期後期にさかのぼるパラカス文化(紀元前900~100年)から連続的に継承発展した文化と考えられている。ナスカ期の特徴とされる、何色もの顔料染色による多彩色土器や目を見張るような美しい染織作品は、パラカス時代からナスカ人がその技法とともに芸術的意匠や図案の感覚を磨きあげて開花させたものである。

とりわけナスカ川とインヘニオ川に挟まれた約500k㎡にわたるサン・ホセ台地に主な作品が集中しているナスカ地上絵には大きく三種類がある。ひとつは、鳥、サル、シャチ、クモ、トカゲ、ハチドリ、人間、樹など動植物の具象図で、現在70点以上が報告されている。中でもペリカンとおぼしき鳥の絵は全長285mの最大規模を誇る。こうした動物の図柄は、ナスカ期前半の多彩色土器に描かれた図像と共通しており、また地上絵を構成する線上に土器片がしばしば散乱していることからも、ナスカ文化前半期の産物と考えられる。近年、かつてパラカス文化が栄えたナスカの北40kmに位置するパルパ川流域地帯の山腹に、人間や動植物を描いた素朴な地上絵がいくつも発見され、ナスカ文化の源流としてのパラカス文化に注目が集まっている。二つめは、現在200点以上が確認されている台形、三角、ジグザグ文様などの幾何学図形、三つめは、約60の中心点から放射状に広がる直線で、現在762本が確認されている。
いったいこれらの地上絵は何を表わし、何の目的で描かれたのか。これまで農暦説、星座関連説、公共事業説、トーテム説、雨乞い儀礼説、地下水路説、はたまたUFO発着場説など諸説唱えられてきたが、いずれも仮説と推測の域を出ない。ナスカの台地に刻まれたその過去からのメッセージは、今も眠ったまま、私達の想像力を膨らませ続けてくれる。

笹尾典代(宗教学・ラテンアメリカ宗教文化)

ナスカ平原の地上絵(ハチドリ)

ナスカ土器(橋形把手付双注口壺)