練習生

 ある日、カウンターに座っているとウグイスの鳴き声が聞こえた。例年、春が近づくと「ホー、ホー」、「ケキョ」、「ケ...キョ」など、練習する声が聞こえ始め、楽しみにしている。だが、今年は練習場所を変えたらしい。最初に聴いた時からすでに完成形だった。この原稿を書いている今では、さらにバリエーションが加わっている。その美しさに驚きつつも、たどたどしい時期から完成に至るプロセスを聴けなかったことが、少し寂しい。

 クラシック音楽の世界には「マスター・クラス」といって、著名な演奏家から受講生が指導を受ける様子を聴講できる制度がある。世界中から来日する演奏家は、コンサートで忙しいスケジュールの合間を縫って、弟子や知人の演奏家の教え子などにレッスンの機会を与えてくれる。通常は非公開だが、音楽祭のイベントとして公開されることもある。中でも人気なのが、毎年5月の連休中に開催される、「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」音楽祭だ。(会場は有楽町・東京国際フォーラム)

 1995年にフランス西部のナント市で始まったこの音楽祭は、東京でも2005年から開催され、昨年20周年を迎えた。当初からマスター・クラスは公開されており、数年前までは無料で聴講できた。受講生は主に音楽大学や音楽を専門に学ぶ高校生で、事前に十分なレッスンを受け、ほぼ曲を仕上げて臨む。それでも、第一線で活躍する演奏家のアドヴァイスにその場で必死に反応すると、みるみるうちに演奏が良くなるのだ。その変化に立ち会える喜びは、一度体験するとクセになる。自分の経験に照らし合わせ、講師の何気ない一言にそっと涙を拭う聴衆の姿もある。

 いよいよ新学期の授業が始まった。学生のみなさんが社会へ巣立つ前の準備期間に、図書館でできる最大限のサポートをしたい。来年の春、それぞれの美しい歌を奏でられますように。(N)