ひさしぶりと偶然のあいだ 

 重松清の『青い鳥』という短編集を、人に勧められて読んでいる。先週、ひさしぶりに偶然会った人から勧められた。長いこと、会いたかった人だった。もう一冊、その人から借りる予定の本があり、こちらは『ネガティブ・ケイパビリティ』、副題は「答えの出ない事態に耐える力」。精神科医で小説家の帚木蓬生氏が2017年に書いている。その人は、すでにその本をボロボロになるほど読んでいて、持ち歩くのがみっともないのでもう一冊買うのだと、一緒に行った本屋でその本を探していた。

 私は、「答えの出ない事態」を抱えている。答えは出ているのか、出ていないのか。出ているのに、出ていないと思っているのか。その答えは誰のものなのか。この事態は誰と共有すべきなのか。誰かが答えを出して済むとして、それでいいのか。私にとっては、とても大切なことなのだ。言葉を求め、この事態に耐える力を求めている。

 『青い鳥』の主人公、村内先生に励まされる日々でもある。「たいせつじゃない、たいせつなことは絶対にない。たいせつなことはどんなときにもたいせつなんだ」。大切なことをないがしろにする大人や友人たちに、為す術をもたず深く傷つく中学生に、村内先生は寄り添い、全身全霊で語りかける。

 そういえば、先日いただいた紅茶の名前はセレンディピティ、「思わぬ幸運をもたらす力」。思いもよらなかった力がはたらく幸福をかみしめながら、久しぶりの読書の合間に、紅茶をいれよう。(T