喜びは困難の中にも

   夏休みというと、数年前に通ったラテン語講座を思い出す。きっかけは、以前ラテン語の図書を
整理した際、充分に理解しないまま進めてしまった後悔から。背中を押したのは、フランス語の
不規則変化につまずいた時、「ラテン語を学べば分かりますよ」と言われたこと。クラスには、
医学生(学術用語として使う)、西洋史好き、フランス語の学びを深めたい人など、様々な年齢や
立場の人が集まっていた。

 ラテン語はとても規則的な変化をする。だが、名詞まで主語により語尾変化(=格変化)する
など、覚える事がとにかく多い。加えて、テキストを2課分予習した前提で授業は進む。シンプルな
解説をなんとか理解した上で、各課に20題以上ある練習問題(和訳)を解く。授業では必ず4、5回
当てられ、文法的な根拠を示した上で答えるのだが、解釈を誤ると一人だけ他の人とは全く別の訳に
なり、初めて「やらかした」事に気づく。

 理解できない部分を消化せずに先へ進んでも、雪だるま式に文法の空白地帯が増えるだけだ。
そうかと言って授業を休めばもっと分からなくなる。ジレンマを抱えながらも続けられたのは、
和訳問題を解いていると古代ローマへタイムスリップした気分になり、どうにかして訳したい!と
思わせる面白さがあったからだ。

 最終日に先生がおっしゃった。「皆さん、良く頑張りましたね。大変だったでしょう。でも、
楽しかったと思います。大変な事の中にしか喜びはないのです」と。ベテランの先生はすべて
お見通しだったのだ。困難の中にも喜びは確かにあった。それを教えてくださったO先生に改めて
感謝している。(N)