しなやかに凛として生きる

"農"が人をつなぎ、世界につながる
自分なりの理想の社会実現をめざして

ながたに農園
永谷 香さん

― Profile ―

人文学部 国際社会文化学科 2007年度卒
(現 人間社会学部 国際社会学科)

卒業後、アジア学院で長期ボランティアを経て、その後、本学園芸スタッフとして勤務する傍ら、2009 年に夫(アジア学院元職員)が開園したながたに農園を手伝う。2011年、結婚と同時に就農。

大学まで土に触れる機会はほとんどなし
授業をきっかけに生活を見直すことに

岐阜県御嵩町で、夫と有機農業を営んでいます。6反(約6000平方メートル)の畑で、野菜を年間40~50種類栽培。少しずつですが、果樹園も作り始めています。

農との出会いは、恵泉での「生活園芸I」。当初は農業というものにあまり関心が向い ていませんでした。しかし、国際社会文化学科の授業を受けていくうちに考えが変化していきました。私が日常でなにげなくスーパーで買ってきて食べている輸入食料品、それが他国の環境汚染や労働搾取などに関わっているということを知ったのです。

特に印象に残っているのは「世界の問題は、自分の生活と関わっている」とおっしゃっていた大橋正明先生(本学名誉教授)や内海愛子先生(本学名誉教授)の授業です。
「視野を広く持ちつつ、足元から行動すること」の大切さを学び、自分の意識が大きく変わりました。高校生のころは「世界の問題を解決したい、そのためには海外に行かなくては」と考えていたのですが、学んでいくうちに、食を含めた生活の基本を見直していくこと、自然にも人にも負荷を掛けない暮らし方をすることが、自分にとっての国際協力なのではないかと思うようになり、有機農家を志すに至りました。

流通に載せるのは自分たちに合わない
一軒、一軒、自らお客様に運んでいます

タイでの「長期フィールドスタディ」からも大きな影響を受けました。自給自足で成り立っている山岳民族の村にホームステイしたのですが、村人みんなが助け合って歌いながら楽しそうに稲を刈って、手伝ってくれた人には農園主がご飯を振る舞ったり、休憩時間は子どもたちと遊んだり。「私もこういう生き方がしたい」と強く思いました。

こうした経験を経て、在学時から夏休みなどを利用して日本各地で行われている短期の農業研修に参加。農業法人のインターンも体験しました。恵泉での学びや体験がそのまま、農園を営む上での私の大切な軸になっています。
卒業後は、 アジアやアフリカの留学生とともに農村指導者養成の研修を行うアジア学院で長期ボランティアを経験し、有機農業の技術を学びました。

私たちの農園では農薬や化学肥料は一切使っていません。その日採れた野菜をご契約いただいているご家庭数で割って、自分たちでコンテナに詰めて直接お届けしています。流通に載せることを第一とせず、つながってくれている方に安定供給していくことを第一としています。

有機農業は難しい点も多々あります。就農前から話を聞いていたのである程度は覚悟はしていましたが、始めて3、4年ほどして栽培が思うようにいかず、経済的、体力的、精神的にかなり厳しい状況に追い込まれたこともあります。今後、辞めるか続けるか、夫と何度も何度も話し合いを重ねました。

この軸が折れたら、私が私ではなくなる
危機を乗り越えて再確認

辛い日々でしたが、私たちが出した答えは、やはり「農を軸に、できることをできるかぎりやっていこう」ということでした。

とはいえ、栽培だけでは厳しいこともわかったので、以前から思い描いていた畑の講座「雑草塾」を形にし、2016年からスタートさせました。中学生から60代まで幅広く受講いただいています。

遠方から有機栽培に関心がある方から「見学したい」という依頼をよく受けます。周辺に宿泊施設がないため、おのずとうちが民宿のような形に...。そこを一歩進めて、「永谷さんち」という食事会も不定期で始めました。来ていただいた方からは代金ではなく、たとえばアロママッサージをしてもらったりエプロンをいただいたり、スキルや物の交換を行い、共に食卓を囲む喜びを分かち合っています。貨幣経済に頼らない"与え合える経済"の豊かさをみんなで実感したいと考えています。

もっと賢く稼ぐ方法はあるとは思います。でも、それでは得られないものをずっと大切にしてきました。農を通して、共有したいことはまだたくさんあります。この軸が折れないよう、柔軟に楽しく生きていきたいと思っています。