恵泉女学園大学

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『チェスをする女』

 いま小学生の間で将棋がブームだそうです。という事を最近、ニュース番組で知りました。将棋をすることで、「考える楽しさ」を覚え、それが学校の勉強でも効果を発揮しているそうです。そのニュースを見てから、少しまえに読んだ『チェスをする女』(ベルティーナ・ヘンリヒス著 ; 中井珠子訳 筑摩書房 2011.2)という本を思い出しました。夫も子どももいて、淡々と日常を過ごしていたホテルの客室掃除係の40代の女性が、ある日ちょっとしたきっかけでチェスにのめりこみます。家族にも内緒でチェスゲームのコンピュータと対局する毎日。それはまさに日常では味わうことのなかった「考える楽しさ」の世界。しかしふと周囲を見回すと、この楽しさを共有できる人間がいない事に気付きます。が、「考える楽しさ」をひとたび知ったいま、まるで自然現象のように続いていた平穏な日常、その中での人とのつながりに再び身をゆだねる事はできない。「考える」ことで気付いた自分の「孤独」。しかしそれは終点ではなく、彼女にとって、新しい世界の始まりでした。

思考の闘いの限りを尽くした対局者同士がひとたび勝敗が定まると、今度は共にこれまでの闘いを振り返り検討する、と言うのも将棋独特のものだそうです。それは「考える楽しさ」をとことん知る人間同士だけに共有できる深い世界、絆なのでしょう。

 テレビのコメンテーターの意見を聞いてうなずき、考えていると「錯覚」している、ということさえ気付いていないかも・・・。そんな自分の日常を再点検したくなったのでした。(A)