恵泉女学園大学

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人文学部 歴史文化学科

縁日

祭りが近づくと、縁日にならぶ遠い日の、出店の光景がよみがえる。入り口にはきまって香ばしいイカ焼き。その隣で、ザラメ糖から変身した夢の綿菓子を巻き取る匠たくみが踊る。「ただの砂糖だ」と親にさとされても、二色盛りでだだをこね、ねばり勝ち。それでもすぐに、金魚すくいのポイに世の無情を教えられた。失意のうちに立ち上がると、向かいはお面コーナー。人気漫画の主人公たちが手招きして、そっとかばってくれた。「水上ボート」が長くなぞだった。水槽に張った水の上をスイスイ走っていくあれだ。仕掛けがないと思われたこのボート、動かしていたのは防虫剤にも使われる樟しょうのう脳だと知ったのはずっと後のことだ。「ひょうめんちょうりょく」なんて知って舞い上がった。大人になるとは、子ども時代の無数の扉が横に横にと掛け金を掛け合わせてつながっていくことだ。縁日のボートを動かす樟脳は、なんと無煙火薬の原料でもあった。列強の争奪戦となり、やがてそこに別格で突き進んだこの国の「南進論」のはじまりも用意したと知るのはさらにまた後のこと。急げ、次はカルメ焼きの順番を待つ子どもたちの列だ。