恵泉女学園大学

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人文学部 歴史文化学科

人形

商品開発に携わった小島康宏氏によると、1967 年、少女漫画を立体化したイメージで「リカちゃん」人形は誕生した(意外なことに、当初、千葉県の醤油工場で製造されたという)。着せ替えは「大人にならないと着られない流行の洋服」を一足先に楽しむ行為でもあったようだ。大人になるための予行練習と言ってもよい。この点で、歴史上の人物に面白い例がある。いずれも19 世紀末に子供時代を送ったイギリス人である。ウィンストン・チャーチル(政治家)は千体もの鉛の兵隊を持っていたが、戦争ごっこに励む息子を見た父親が陸軍入りを勧めることになる。一方、アガサ・クリスティー(小説家)はドールハウスに没頭して小遣いを注ぎ込んだが、これは家への愛着や主婦業への憧れとなっていく。人形遊びは人生の選択と表裏の関係にあったわけである。ところで、極貧家庭に育ったチャールズ・チャップリン(俳優)には人形遊びをする余裕もなかった。ひょっとして、後に舞台やスクリーンの上で浮浪者から独裁者まであらゆる人間のタイプを演じることになったことと、何かしら関係しているのかもしれない。