恵泉女学園大学

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人文学部 歴史文化学科

連続講座 第3回「世界遺産と宗教建築:人類の歴史文化交流の旅」

今年、文化学科では、2013年度より「歴史文化学科」に生まれ変わることを記念しての連続講座「歴史に学び、未来を創る」(全4回)を開講してきました。その第3回目の講座「世界遺産と宗教建築:人類の歴史文化交流の旅」が、11月11日(日)に、世界遺産アカデミー主任研究員の目黒正武先生を講師にお招きして開催されました。
今回、とくに「価値観の交流」を遺産価値として登録された世界の宗教建造物の数々を取りあげながら、文化・文明の交流によって紡がれてきた人類の歴史への時空を超えた旅に私たちを誘って下さった目黒先生の講演は、歴史と文化への学びのアプローチ、学びの切り口のひとつとしてユネスコ「世界遺産」の学習を奨励する「歴史文化学科」のコンセプトを十二分に体現してくださるものとなりました。

講演は、冒頭から、今日ではキリスト教カトリックの聖地として有名な世界遺産モン・サン・ミッシェル(フランス)が、かつては先住民のケルト人が信仰していた聖地であったというお話に始まり、セビリアの大聖堂やアルカサル(スペイン)など、同じ場所に佇みながらも、時代の流れの中で宗教や文明の交代によって増改修が繰り返された結果、多様な建築様式が混在する特異な建造物となったような遺産の数々、世界最古の木造建築物として日本で最初に登録された文化遺産「法隆寺地域の仏教建築物群」の中の金堂や五重塔の柱の様式が、はるか遠い古代ギリシャの建築様式と共通していること、はたまた、世界遺産登録の仕組みやその裏話に至るまで、現在、登録数962件(そのうち文化遺産745件、自然遺産188件、複合遺産29件)におよぶ世界遺産のほとんどに精通する目黒先生の「比較」の視点からならではの、たいへん興味深い、そして貴重なお話を伺うことができました。

はるか遠い異なる文化圏や異なる宗教、異なる時代に属す「文化遺産」であってもそこに何か共通性を見出せたならば、それは人類文化に通底する「普遍的なるもの」に向けての極めて意味ある発見となります。また逆に、同じ宗教、同じ文化圏に属すものであっても、地域や時代、あるいは宗派の違いによって相違や変化が見られることも多々あります。共通点を見いだすとともに、相違点やその固有性を確認し、それらを互いに尊重する。そこから世界への視野がひろがって本当の相互理解が生まれます。 今回の目黒先生のお話から、そうした「比較」の視点の重要性をあらためて認識させられたように思います。個々の「世界遺産」物件への関心や探究はもちろん大切ですが、人類共通の宝とされる数多ある世界遺産のなかに普遍性を、普遍性のなかに固有性と多様性を見いだすことを可能にする「世界への広い視野」を持つこと、それはまさに「歴史文化学科」での「世界遺産を通しての歴史と文化の学び」が目指すところです。「文明は衝突しない。争いは人間の無知、相互理解の欠如から起こる。」というユネスコ憲章の理念を彷彿とさせる目黒先生の言葉が印象的でした。
当日は、ちょうど恵泉祭の開催中ということもあり、在学生のみならず高校生をはじめ学外からの多くの一般来校者の方々のご参加をいただきました。今日、「文化遺産」に登録されている建築物の多くは宗教建築であり、世界のそうした宗教建築を巡る今回の人類歴史文化交流の旅は、80分という時間ではあまりに短すぎたようですが、聴衆の誰もが、人類文化の歴史において、宗教と建築が果たしてきた役割の重みにあらためて気づかされるとともに、「世界遺産」への尽きない関心の種をまかれたのではないでしょうか。

*歴史文化学科における世界遺産の学びについては、「世界遺産ブログ」、および無料で配布している冊子『世界遺産―歴史と文化の学び方』をご覧ください。
冊子の郵送をご希望の方はnyushi@keisen.ac.jpにお問い合わせください。