入学式式辞 学長 大日向雅美

2016年04月01日

学長 大日向雅美

新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます。
ご両親・ご家族・保証人の皆さまにも心よりお祝いを申し上げます。

この美しい多摩キャンパスの中でも、桜咲くひときわ美しいこの時に、皆さまをお迎えできましたこと、教職員一同、大変嬉しく思っております。

大学生になられた方はこれからの4年間、大学院生になられた方はこれからの2年間への期待に胸ふくらませていることと思います。

その皆さまにまず、お贈りしたい言葉があります。
「自分自身開拓者となって道を明るく照らしていく者におなりなさい。マイランターンで」。恵泉女学園の創立者・河井道先生の言葉です。

大学は今年で創立28年目ですが、学園は1929年に創立されました。
真の平和を願い、世界に向かって開かれた心を持ちながら、地域で地道に暮らしを紡ぎ、社会のため、人のために役立つことを喜びとする女性の育成を目指した河井道の教育理念の下、恵泉女学園は中学・高校・短大・大学・大学院と一貫して女子教育に尽くしてまいりました。
この教育理念は、90年近く経った今もけっして色あせてはいません。むしろ、今こそ、求められている女子教育の姿ではないかと考えます。

昨今、女性の活躍促進が言われています。
政府は「202030」を標語に掲げて、女性の活躍を促進しようとしています。国会議員や地方議員、民間企業の管理職等、社会の各分野で指導的地位に立つ女性の割合を2020年までに30%にしようという目標です。いずれも10%にも満たないのが現状です。
少子化が急速に進み、女性の働く力が求められている昨今です。女性の高学歴化も着実に進んでおりますので、「202030」の実現は確かに必要でしょう。

しかし、女性の活躍とはそれだけでしょうか?

恵泉女学園が長きに亘って力を尽くしてきた女子教育は、単に指導的立場に立つ女性の育成だけを目指したものではありません。
 それでは、何を目標としてきたのでしょうか?
それはあなた自身・女性自身が輝くための教育です。
 あなた自身が輝くことで身近な人、大切な人、さらにはこの世に命を授けられたすべての人が、豊かに、平和に生きられるよう、力を尽くす女性となることを願ってのことです。

言葉を換えれば、この社会に真の平和を実現することに貢献できる、「自立した女性」の育成です。世界の各地で悲惨な戦争が跡を絶ちません。この日本にも平和を脅かす足音が聞こえつつあります。
平和構築の必要性をしっかり胸に刻みたいと思います。
しかし、平和とは戦争がない社会だけを意味するものではありません。民族や人種、思想信条の違い、貧富の差や性の違いによって差別されることなく、その人らしく生きられること、自分を大切にするのと同じように他の人を思いやることができることが、真に平和な社会の条件ではないでしょうか。
ここにこそ女性の活躍が求められなくてはなりません。
社会的に高い地位につくか否か、権力や指導的な立場を得るか否かは、けっして根本的な問題でも、目標でもありません。

この目標の実現は簡単なようで、実はこれほど難しいことはありません。河井先生は「開拓者となれ」という言葉の前に次のように言われています。「まっすぐな狭い道を歩くこと、人々が踏みならした道を行くことに満足せずに」と。

とかく女性の人生は、ひとくくりで表現されがちです。「女性とは」「妻とは」「母とは」かく生きるべきだと言われ、狭い道を指し示され、皆と同じように生きることが正しいと信じ込まされてきました。
しかし、現実はひとくくりで表現されるほどに女性の人生は単純なものでも、たった一つの狭い道を辿って済むような単線でもありません。
大学・大学院で学んだことを活かして、ご自分の目標を生涯追い続けることも可能です。結婚や子育て・介護などで人生設計を変えざるを得ないこともあるでしょう。どんなに女性の活躍が言われていても、社会の制度はまだ未整備な面が少なくありません。皆さまの行く手にはさまざまな壁が立ちはだかることでしょう。そうであればこそ、ご自身の人生の「開拓者」とならなくてはならないのです。

こうした話をお聞きになると、「私には自分の人生を切り開いていくような力はない」と若い皆さまの胸の内は不安でいっぱいになってしまったかも知れません。

そうお思いになるのはとてもよく分かります。私自身、大学に入学した時、大学院の研究科の門をくぐった時、期待と共に、いえ、それ以上に不安な気持ちの方が強かったことを思い出します。大学生活が無事楽しく送れるだろうか。大学院で果たして研究成果を上げることができるだろうかと不安でした。周囲の人が立派に見えて気後ればかりでした。
でも不安な気持ちがあったから、私は前に進んで来られたと思います。自分が不完全で出来ないことばかりであることを知ったから懸命に学び、周囲の方々に素直に教えを請うことができたのだと思います。
皆さまの何倍も年を重ねてなお、自分の未熟さ・いたらなさを思う日々です。

河井先生はこうも言っておられます。
「人は不完全であるから成長し、進歩し、進化する期待が持てる」と。

人生は長いです。とりわけ若い皆さまは、その手にたくさんの、たくさんの時間をお持ちです。どうかその時間を大切に使って下さい。恵泉女学園大学でのこれからの4年間、大学院生の方にとっては2年間が、この先の長い人生を生きる力となることを願っております。

そのためにはどうか懸命に学んで下さい。大学・大学院は学ぶ場です。自分の不完全さを謙虚に思う心を大切にして貪欲に学んで下さい。
学ぶことで、あなたは新たな世界の扉を開き、知識が持つ力の素晴らしさを知り、新たな自分と出会う喜びをお知りになるはずです。
文献や資料を読み解き、自身の疑問を真摯に追及する力をつけて下さい。日本各地・世界の各地に出向き、フィールドスタディを通して、多くの文化と人々に触れる機会も持っていただきます。
 恵泉での学びを通して、他の方々と共に支えあって生きることができる日々への感謝の心とご自身への誇りを持ってほしいと願っております。

そうした願いを込めて、私の好きな言葉を最後にもう一つ、贈りたいと思います。
 「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」

今、季節は春です。でも、私たちは誰もが、たとえ春の温かな陽射しの中に身を置いているとしても、先々の不安におびえ、自身の無力さ・未熟さ・不完全さをつらく思う冬の時が必ずあります。若かった私がそうでした。その時の支えとなった言葉です。

 「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」

 

ただし、草花は良い土壌の中でこそ、下へ下へと根を伸ばすことができます。花を咲かせるには、良い土壌が必要です。
恵泉女学園大学・大学院は、すべての教職員が皆さまお一人おひとりの個性を大切に思い、あなたならではの花を咲かせための土壌となることを心から望み、そのためのサポートを惜しまないことを、どうか心に覚えていらして下さい。

最後になりましたが、ご両親さま・保証人の皆さまにも一言申し上げます。
大切なお嬢さまの進学先として、この恵泉をお選びくださいましたことに、感謝申し上げます。
私はこの4月に学長に就任いたしましたが、恵泉女学園大学には開学当初から奉職しております。
女子教育の大切さと河井道の理念の意義を、研究者として、教育者として深く心に留めてまいりました。そして、二人の娘をもつ母でもございます。皆さまがお嬢さまをどのような思いで今日までお育てになられたかを、思います。
その思いに必ずお応えすべく、大切にお預かりさせていただきますことをお伝えいたしまして、式辞を終えさせていただきます。