いきものをとむらう歴史 : 供養・慰霊の動物塚を巡る

依田賢太郎著 社会評論社(387/Y)

著者は、実験動物の慰霊碑の調査をきっかけに、全国の動物塚を訪ねて各地を歩き回った。あとがきによれば、「調査した動物塚の数はわずか五百数十基」とのこと。わずかって、ごひゃくも!と驚いていたら、1万くらいはあるそうな。きちんと分類分けされた目次をみても、犬、猫、馬などはともかく、魚や虫のものまであるとは。何故こうしたものがつくられたのだろう。そのことに、建てた人々の、生きとし生けるものへのやさしさを感じる。(Y)

 

鹿と日本人 : 野生との共生1000年の知恵

田中淳夫著 築地書館(489.8/T)

鹿と聞いてパッと思い浮かぶのは、奈良公園で観光客からお煎餅をもらっている可愛い姿であるとか、或いは、草深い田舎の道路脇に立っている「鹿に注意!」の標識である。この本の副題によれば、人間と鹿の付き合いは1000年に及ぶとか。また、鹿を含め、野生動物による「獣害」が問題になっているが、何とかうまく共生していく方法はないものか、考えさせられる。(Y)

 

刑務所しか居場所がない人たち:学校では教えてくれない、障害と犯罪の話

山本譲司著 大月書店(326.5/Y)

刑務所というと罪を犯した人が収容されていて「一般社会」とは全く違う世界のように思えるが、そこにも高齢化の波は押し寄せている。もしかすると高齢化率、障害のある人の割合は「外」より高いかもしれない。というのも、本当なら福祉が支えるべき人々が様々な理由からその網からこぼれ落ち刑務所に居場所を求めるという状況があるのだ。自分とは関係のない施設、と思っていてはいけない。  (M)

 

教師のブラック残業

内田良、斉藤ひでみ編著 学陽書房(374.3/U)

何よりも生徒のことを考え、授業だけではなく部活や生活指導などにも一生懸命取り組む先生がよい先生というイメージがある。しかし現実には「よい」教師であり、かつ「普通の社会人」であることは難しい。教師という仕事が好きなのに残業が辛すぎて辞めざるを得ない-こんな悲しい状況を破るために先生たちが立ち上がった。最近問題になっている「ブラック部活」「ブラック校則」などみんなつながっているように思える。  (M)

 

もっと知りたいボナール

島本英明著 東京美術(723.35/B)

ボナールの作品の多くは豊かな色と光に満ちあふれている。しかし彼はデッサンもことのほか重視していたという。一方これも彼の手になるポスターはいかにもロートレック風。ところが実際は逆でこの作品がロートレックのポスター制作に多大な影響を与えたとか。一見親しみやすいが多面的で奥深そうなボナールの作品世界。ただいま開催中の作品展で実物もぜひご覧ください。(A) 

 

コーダの世界:手話の文化と声の文化

渋谷智子著 医学書院(369.2/S)

顔を見ないで生返事。こんなことは手話ではありえない。手話によるコミュニケーションは一つ文化なのだということがこの本ではとてもよくわかる。そして聞こえない親を持つ聞こえる子どもたち「コーダ」は、手話の文化と声の文化という異なる文化を生きる「バイリンガル」である。「コーダ」はしばしばこの異文化の常識のはざまで橋渡しとならざるをえない状況にも置かれる。想像を越える「コーダの世界」がとても具体的にわかる貴重な一冊。(A)