実りの秋を迎えて~その1~

2017年12月04日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

日ごとに秋が深まり、実りの季節を迎えました。
11月16日、多摩キャンパスでは収穫感謝祭が行われました。

礼拝感話は大学院平和学研究科2年の田中裕夏さんの「恵泉畑がつなぐ輪」。
収穫感謝祭にふさわしいお話でしたので、ここにその一部を紹介させていただきます。

私は恵泉の人間社会学部人間環境学科で4年間を過ごし、1年経たあとに大学院へ入学しました。平和学というと、何を勉強するの?とよく聞かれますが、一緒に学んでいる大学院生の研究テーマは実にさまざまです。さらに、平和学研究科のおもしろいところは、学部とは違って、年齢が異なる友と一緒に学ぶという点です。社会経験を多く積まれてきた方々と一緒に学ぶことで、知らなかったことを教えていただいたり、「ああ、そういう考え方もできるのだな」と、今まで自分が当たり前だと思ってきたことを、もう一度考えなおすきっかけにもなったりします。この経験から、自分の意見や主張を持つことも大切だけれど、他の人の意見、とくに自分と異なる意見に耳を傾けることの重要性を感じています。

私は大学院で、澤登先生のもと、「都市における農ある暮らしの可能性」をテーマに研究を進めているところです。「農あるくらし」に興味を持ったのは、大学二年のときに参加したタイ長期FSで、カレン民族の村に入ったことがきっかけです。彼らは暮らしの中心に農業があり、その暮らしというのは、人と人、人と自然のつながりのそのなかで、成り立っているように私には見えました。農のある暮らしとは、絶対に畑を耕さなければいけない、というわけではなく、ちょっとしたこと、家の近くの農家の直売所で野菜を買うとか、その農家のおばさんとお話しするとか、そういうことでもいいと思います。

去年の4月から活動を始めた、恵泉CSAがあります。Community Supported Agricultureの略であるCSAは、「地域が支え、地域を支える農業」です。これは、地域が地元の農家を支え、地域は農業によって支えられるということで、生産現場が遠く見えにくくなってしまった、農業や食を、自分たちの暮らす地域、手の届くところに取り戻そうという取り組みだと私は理解しています。CSAは、農業を産業としてではなく、暮らしと密接に関わりのある「農」として見る、視点を与えてくれると思います。

恵泉CSAは、都市化が進み、人と人、人と自然の関係が疎遠になりつつある現在、有機園芸、有機農業を通して、地域を支える、地域が支える、地域とつながることで関係の紡ぎなおしができるのでは、という思いから始まりました。多様な人々、世代が集い、多様な生きものが棲まう持続可能な社会、コミュニティー菜園を目指し、学生、教職員、有志からなるチームで活動しています。

恵泉CSAでは、会員の方へ、毎週水曜日の夕方に事務所前に野菜を出荷しており、会員は自分の名前が書かれている野菜セットを持ちかえるという仕組みです。代金は前払いで頂いているので、その都度のお金のやり取りはありません。セットの中身は季節によって変わり、最近はルッコラやコカブ、ミズナなどが入っています。夏にはジニアなどの花束が入ることがあり、セットに彩りを添えてくれます。会員の方からは、毎週どんな野菜が入っているのかを楽しみにしている、恵泉で採れたものだから安心して食べられる、などの声をかけていただいています。

恵泉CSAの活動は、平日の授業の空き時間に行うので、時間に限りがあります。そのような中で、ただ野菜を届ける、だけにはしたくないという思いがあります。そのためにも毎週恵泉CSAのメンバーが手書きをして、野菜セットに入れている、ニュースレターというものがあります。(中略)このニュースレターや恵泉CSAの野菜セットが、日々忙しくしている方々の、ほっと一息つく瞬間になっていればとてもうれしいです。

畑は季節の移り変わりを、繊細に感じられる場所でもあります。一週間畑に行かないだけでも、白菜の葉っぱが大きく成長していたり、ルッコラが元気よく伸びていたり。木々の葉っぱが紅葉していたり、ドングリが落ちていたり、レタスの葉の下に蜘蛛の抜け殻があったりします。

私は恵泉での学びを通して、畑は野菜をつくるだけの場所ではない、ということを考えるようになりました。畑は、人と人、人と自然のつながりをもたらす場でもあり、収穫する喜びや、土をいじることで得られる心の安らぎ、さらに過去や未来と繋がることができる場所でもあると思うのです。土というのは、今だけがあって成り立つものではなく、何年もかけて土づくりをしてきたからこそ今、野菜を育てることができます。

昔の人がそうしてきたように、私たちも未来に土を残す必要があります。また、私は、恵泉CSAを通して、同じ目的に向かって多様な世代がともに活動することの面白さに気づかされました。目まぐるしく動き続ける都市だからこそ、ほっと息つける畑や農業が都市の中にあることが大切なのではないかと感じています。このように感じてくれる人が増えることを願っています。

今日選んだ聖書箇所*にあるように、武器を買ったり持ったりする世の中になろうとしていますが、武器ではなく、くわやすきに持ちかえて、命を育み育てる社会にしていかなければならないと思います。そのために私は一人でも多くの人にこの学びを伝えてゆきたいと思います。

*聖書箇所:イザヤ書2章4節
主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤(すき)とし、槍(やり)を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない。

礼拝の後、皆できのこ汁とおにぎりを楽しみました。
冷たい風が吹いて、寒さがひときわ厳しく感じられる日でしたが、心も身体もほっと温まるひと時でした。

田中さんの感話の中のことば、「畑は、人と人、人と自然のつながりをもたらす場でもあり、収穫する喜びや、土をいじることで得られる心の安らぎ、さらに過去や未来と繋がることができる場所」の実践は、多摩キャンパスのほかに、都心の子育てひろば「あい・ぽーと」でも、恵泉とNPOの協働で展開されています。
詳しくは、次回、実りの秋を迎えて~その2~でご報告させていただきます。