「生涯就業力」推進に一層の必要性を確信して~恵泉女学園大学・大学院国際シンポジウムの報告~

2016年11月14日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

学長に就任して以来、女性の「生涯就業力」を磨くことを本学の一大モットーとして取り組んでおります。11月5日の恵泉祭に開催したシンポジウム『女性の「生涯就業力」と高等教育の役割』はそのことを多くの方に知っていただく機会となることを願ってのことでした。

非常に充実かつ刺激に満ちたシンポジストのメッセージ

私の基調講演に続いて韓国の金善旭梨花女子大学(前)総長と武川恵子内閣府男女共同参画局長がご登壇下さいましたが、お二人からは30枚余りもおよぶパワーポイントに基づいた非常に充実したメッセージをいただくことができました。

金総長のお話は「韓国女性の生涯就業の現状と大学の役割」と題して、<1.女性雇用の現状><2.女性雇用の阻害要因と問題点><3.女性雇用関連の法律及び支援施策><4.女性生涯就業のための大学の役割><5.課題>からなるものでした。

武川局長のお話は、「日本の男女共同参画施策の現状と今後の課題について」と題して、<ジェンダーギャップ指数の現状>から始まり、<なぜ女性の活躍が重要か>を高齢化の推移や将来統計・ダイバーシティ社会の構築の必要性・女性の就業率の推移等のデータに基づいてご説明され、それに続いて男女共同参画にかかわる世論調査の結果等のご紹介と法整備の進捗状況についてのお話へと展開していきました。

金善旭(韓国・梨花女子大学教授 前総長)

武川恵子(内閣府男女共同参画局長)

日本と韓国の女性施策は似ている。しかし、違いは

お二人のお話から、女性が置かれている現状には日韓ともかなり類似した点が多いこと、またその改善に向けた政府の取り組み状況等もかなり進捗を示している点で類似点が多いことが確認されました。

そうした中、もっとも大きな相違点は、韓国では大学が女性施策推進の要としての役割を率先して牽引していることでした。とりわけ梨花女子大学では政府の女性雇用関連施策と連動して、「新しい仕事センター」「女子大学キャリア開発センター」「女性リーダーシップ開発院」「グローバル未来生涯教育院」「リーダーシップ開発院」等がさまざまな教育プログラムを実施し、さらに女性が活躍するために大切な平等と多様性尊重の価値醸成に注力したジェンダー教育を徹底していて、参加者からも圧倒されるという声が届けられたほどです。

一方、武川局長のお話からは日本の女性施策がここ数年、飛躍的に充実していることが明確になり、これまた参加者からそうした現状が伝えられたことへの感謝の声が多く届けられました。
そのうえで日本の女性たちの現状はというと、複雑な面が浮き彫りにもされました。中高校生や大学生など若い年齢層の女性にはジェンダーギャップへの認識が低く、一方、社会に出て、30代・40代になった時に、こんなはずではなかったと、女性であるがゆえの生きづらさを実感する声が多いという局長のお話に、日本の女性活躍の課題が社会構造にあるということを改めて考えさせられました。

教育現場はかなり男女平等が進んでいて、こうした言い方が適切かどうかはわかりませんが、女子学生たちにとってある意味、温室的な状況と言えるかもしれません。
しかし、一歩、社会に足を踏み入れた途端、子育てや介護、さらには職場環境の問題等々で、厳しい風にさらされるのが現実です。
そうした現状を改善すべく施策の一層の充実と浸透が喫緊課題ではありますが、
一方で逆風に堪え、現状を変えるだけの力を身につけさせることが、女子高等教育機関としての大学教育の役割です。
在学中の「生涯就業力」の育成、社会人となってからの「生涯就業力」への支援の一層の必要性を武川局長・金総長のお話から学ばせていただきました。

女子が学ぶことへの応援ビデオメッセージ

後藤弘子千葉大学教授からは、このシンポジウムへの応援のビデオメッセージをいただきました。千葉先生は日本学術会議第一部ジェンダー分科会委員長をお務めになっておられます。 私が5月9日に学長の部屋に書いた「女の子はアインシュタインなんか知らなくていい?」で問題提起したことに対して、折しも学術会議でも同様の関心を持っていらしたと教えてくださいました。女の子は勉強なんかしなくていいと言わんばかりのアイドルグループが歌う歌詞に、どれほどの女子高校生が傷ついていることでしょう。「胸を張って学んでいい。学んでください」と若い女性たちに伝えようという後藤先生の力強いメッセージに励まされた、という参加者の声もたくさん寄せられました。

本シンポジウムを通して、女性活躍の現状と課題が明らかとなり、大学での女子教育の在り方を考えるうえで大変有意義な刺激と貴重なご示唆をいただけました。
お二方からお伺いしたお話は、学生達にも授業を通して継続的に伝えていきたいと考えております。

最後に、このシンポジムの企画運営にかかわった教員からのメッセージです。

【大学院平和学研究科教授 定松文】

女性が生涯にわたって働くことができる社会にするため、教養教育を行う高等教育機関として何をすべきか、武川局長と金先生から多くの知見と将来展望をいただきました。
武川局長からは社会人基礎力・論理的思考・行動力に加え、社会に出てから必要な知識として強調されたのは「労働者の権利」と公的政策のリテラシーです。弱い立場に置かれることがある女性だからこそ、対抗するための知識と支援にアクセスする能力が働き続けるため重要になるとのメッセージでした。そして金先生からは、アジアに根差したジェンダー研究をという次を切り拓く方向性を指し示していただきました。
Global Gender Gap Indexの順位は111位116位となった日本と韓国ですが、もう一度指標をアジアの視点から反省と批判の視点をもって検討し、持続可能な社会へ向けた指標を東アジアの私たちが作ってもいいかもしれません。明日に架ける橋は私たち女性が多様な人々とつくっていけるように。
また、今までの大学院国際シンポジウムと聴衆の質が大きく変わったことが印象深い会でした。当初、参加者が少ないのではと心配しましたが、就職に悩む在学生、社会で働いている卒業生の琴線にふれる内容だったこと、高校教員の方々も来ていただき、その後の懇談で女性の高等教育について語るひと時をもてたとことで、女性のための大学のシンポジウムになったと思います。

【国際交流委員長 李 泳采】

今回のシンポジウムは、女性の生涯就業力を育成するために、社会構造的に制約を受けている女性が激変するこれからの社会において、キャリアを断絶することなく、持続的な働きと生き方ができるために、大学と社会が共に何をしていくべきかを考える重要な場でした。日韓の社会構造は非常に似ており、女性が置かれている社会構造も類似している点が多いです。ところが、双方の女性政策は、社会構造の違いというよりは、政策決定の過程で女性の管理職率と女性の意見などがどれほど反映されているかによって違いが出てくると思いました。女性にとって育児と再就職、介護問題が分離された個別の問題ではなく、総合的な社会問題であることも改めて学びました。

【大学院平和学研究科長 上村 英明】

紹介されたglobal gender gap 指数 2016で、日本が111位である点は、かなり衝撃を受けると同時に劣悪な経済参加や政治参加からみる分析にはなるほどと思いました。時は21世紀、改めて、女子大の存在意義を確認し、本恵泉女学園大学の果たしてきた役割の重要性を考えました。
武川局長の話からは改めて、女性の権利が男性の対応と大きな関係性にあることを再認識しました。例えば、家事の分担が少ないこと、また家事の分担ができている家庭で出産が増えるなどの点です。つまり、「女性学」は女性の問題に対応するだけでなく、社会全体の問題に対応するのだという認識ができました。
また、金先生のお話しから、「生涯就業力」という概念は、梨花女子大の例にもあるように、「生涯教育」とかなりオーバーラップしていると思いました。女性は本来いくつもの人生の曲がり角を曲がらなければならず、さらに変化の激しい時代となれば、その時その時に応じて、社会と向き合うことができるようなリベラルアーツに根差した教育プログラムが極めて必要なのではないでしょうか。そして、本来男性もそうなのだと思いますが。

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