9月卒業式辞~ 焦らず、急いで

2016年09月19日
恵泉女学園大学学長 大日向雅美

学部卒業の皆様、大学院修了の皆様、おめでとうございます。
皆さんの晴れやかなお顔をこうして見ることができたことを、大変嬉しく思います。
ご家族・保証人の皆様のお喜びもいかばかりかと存じます。心からお祝い申し上げます。

遠回りに思えることにも必ず意味がある

今日の日はこれからの皆さんにとって特別な日となることでしょう。 
日本では通常、卒業式は3月です。
皆さんの友人の多くはこの3月に恵泉から巣立っていきました。
しかしながら、皆さんはそれから半年、あるいはそれ以上の時間を経て卒業・修了の日をお迎えになりました。

実は私も大学院の博士課程の修了は9月です。正式には満期退学です。長女の妊娠出産で半年休学したことが理由です。通常在籍3年の博士課程を満期6年間在籍し、休学分を含めて9月に修了を迎えました。

当時は遠回り・足踏みと思わなくもありませんでした。
同期の友人知人が次々と大学に職を得て行く姿を見ながら、博士論文の完成の目途も立たない日々は焦りの日々でもありました。
でも、今振り返って、私にとってはなくてはならない時間だったと思えます。

研究と子育てを両立する大変さは、今、思い起しても胸が苦しくなることがありますが、その中で私はいつしか全国の母親たちの育児の苦しさを聴きとる研究へと導かれていきました。それが私のライフワークの「母性の研究」「女性の生き方」の研究となり、恵泉での女子教育に身を捧げる道へとつながっています。

今は未来につながる

人生に意味のないことはない、と私は今、確信しております。
遠回りに思えることにも、必ず神様はそこに大切な意味を込めて下さっています。
「今は未来につながる」と確認することは、「生きる意味」を確認することです。
人と違う生き方であったとしても、いえ、人と異なる道だからこそ、自分が存在する意味が与えられていると考えたいと思います。

皆さんもどうか今日の日を迎えるまでの道のりを今一度振り返って下さい。
多くの仲間とは異なる道を歩むこれまでには、焦りを覚える時間もあったかもしれません。それでも皆さんは負けませんでした。立派に卒業証書・学位記を手にされました。
焦らず、あきらめずに、目標を成し遂げたご自分に誇りを持って下さい。
支えて下さった方々への感謝の気持ちを胸に、どうか今の晴れやかな笑顔で前を向いて進んでいただきたいと思います。

無限の可能性と有限の時間と

皆さんの前には大きな可能性があります。無限の可能性と言っても良いでしょう。
もっとも、時間はけっして無限ではありません。私たちに与えられた時間は有限です。
焦らず、しっかり地に足をつけて、一日一日を大切に歩んで下さい。

そうすれば、必ずあなたの心に響く何かとの出会いに恵まれるはずです。
その時はすぐに行動に移す勇気をもちましょう。
ご自分の直感を信じて、果敢に挑戦してほしい。挑戦することには急いでほしい。
躊躇する時間はもったいないからです。失敗してもいいのです。失敗も若さの特権です。
私もこれまでどれほどの失敗を重ねてきたか、数知れません。
どんな失敗にも意味があると考えることができる時間の余裕、それが皆さんの若さに与えられた特権です。

心に響くものとの出会い、それはいつかは分かりません。
明日かもしれません。5年先、10年先、いえ、もっと先かもしれません。
いつ出会えるかよりも、出会いを求め続ける時間が皆さんの人生を豊かにしてくれると思います。

「恵泉スピリット」をいつも心に

その時、皆さんにとってかけがえのない力となってくれるものがあります。
それはこの恵泉での学びから得たもの、つまり「恵泉スピリット」です。

「恵泉スピリット」とは何かとたずねた時、学生の中から次のような答えが届けられました。

  • ひとり一人が困難に負けず、周囲の人と力を合わせて少しずつでも前進していく力
  • 女性の自立を他者を思う気持ちで育て、自ら発信し、その信条や信念を貫くこと
  • 個につながる個と周囲につながる個を自分で作っていくこと

ひと言で「幸せを実現する精神」と書いた人もいます。
何と力強く、そして、他者を思う謙虚さと優しさに満ちた言葉ではないでしょうか。

私たち教職員はこの恵泉に集ってくれた皆さんが「平和を愛する自立した女性」となることを願って、その成長を見守らせていただいてきました。
でも、気がついてみれば学生の皆さんに教えられ、励まされることが何と多いことかを改めて思います。こうした言葉を贈って下さる恵泉の学生の皆さんと共に、この多摩キャンパスで過ごせた日々に心から感謝したいと思います。

これからの皆さんの人生はけっして平らな道ばかりではないかもしれません。
壁にぶるかる時、つまずく時もあるでしょう。弱りながら、時には立ち止まりながらも、しかし、歩き続けてほしいと願っております。
身近な大切な人々のために、社会のために生きようとして下さい。皆さんが輝くことで周囲を、そして社会を明るくする、そのために自分を大切に扱い、努力を続けることが「恵泉スピリット」です。

疲れた時には先ほど、副学長がお読み下さった聖書の言葉*、そしてお祈りの言葉を思い出して下さい。
「恵泉スピリット」で結ばれた私たちが、いつも皆さんのことを心に留めていることを覚えていらして下さい。
そして、いつでも恵泉に帰っていらして下さい。

これからの皆さんのご活躍とお幸せを心から祈って、式辞といたします。

*聖書 イザヤ書40:28〜31

「28 あなたは知らないのか、聞いたことはないのか。主は、とこしえにいます神/地の果てに及ぶすべてのものの造り主。倦むことなく、疲れることなく/その英知は究めがたい。
29 疲れた者に力を与え/勢いを失っている者に大きな力を与えられる。
30 若者も倦み、疲れ、勇士もつまずき倒れようが
31 主に望みをおく人は新たな力を得/鷲のように翼を張って上る。走っても弱ることなく、歩いても疲れない。」