2012年7月

パリ、セーヌ川の両岸(フランス)

2012年07月30日

パリは、観光客の数が年間2800万人にもなる世界的な観光都市である。そのような都市が世界遺産であるといわれても、まあそうだろうという程度の感想しか抱かないのではないだろうか。しかし、その登録内容を見ると、パリの世界遺産登録までの道のりは、それほど平坦ではなかったことが推測できる。実際のところ、フランスにおける37箇所(2012年5月現在)の世界遺産のうち、パリの登録は17番目と中間くらいで、知名度がそれほど高くないものの方が先に登録されている。

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セーヌ川から左岸を望む

現存する19世紀唯一の万国博覧会会場(オーストラリア)

2012年07月23日

王立展示場(Royal Exhibition Building)は、19世紀に開催された万国博覧会の会場としては、世界で唯一現存する建造物である。万国博覧会は1851年に初めて開かれた。このときロンドンのハイドパークに会場となった「水晶宮」が姿を現したが、期間が終わると移設されて、後に火災で焼失した。ロンドン万博後、ニューヨーク、パリ、ウィーン、フィラデルフィアなど各地で開催され、オーストラリアでも1879年のシドニーと1880年のメルボルンで連続して万博が開かれた。王立展示場は、メルボルン万博の会場であった。
ここでオーストラリアの歴史を紹介すると、ヨーロッパからの移住が始まるのは、1770年に発見された東海岸が「ニューサウスウェールズ」と命名されてからである。1786年に同地はイギリスの流刑植民地となった。1830年以降は自由移民も増え、さらにイギリス国内で監獄改革が進展したこともあって、1840年にニューサウスウェールズへの流刑制度は廃止された。

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王立展示館

カムイのものはカムイへ ―自然をめぐる国家と民族―(日本)

2012年07月17日

知床は、日本では、屋久島、白神山地に次いで3番目に登録された7万1100ヘクタールに及ぶ広大な自然遺産である。流氷による大量のプランクトン、サケ、マスなどの遡上魚、遡上魚を捕食するヒグマ、シマフクロウ、オジロワシ、その他トドなどの海獣やクジラから構成される、対岸のクナシリ島を含めた海と陸の生態系が連鎖する貴重な空間として評価された。それに加え、4番目の小笠原諸島を加えた自然遺産の中でも、知床は独特の条件をもっている。その名前「シレトク(sir-etok)」はアイヌ語で「大地の行き詰まり」を意味し、名所である「カムイワッカ(kamuy-wakka)」の滝も同じく「魔の水」を表している。(この滝の水は、硫黄山から流れる有毒な水で、この場合の「カムイ」は「荒らぶる神=魔」を表している。)つまり、この自然豊かな土地は、もともと先住民族・アイヌ民族の伝統的な領土の一部であるということだ。そして、日本という国家の視点と先住民族の視点は、重要なすれ違いを起こすことがある。

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海から見た知床

平泉 ―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(日本)

2012年07月09日

岩手県南西部の平泉町中心部には、平安時代末期の寺院や遺跡群が多く残る。そのうち中尊寺、毛越寺、観自在王院跡、無量光院跡、金鶏山の5件が、「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」として2011年6月にユネスコの世界遺産一覧表に記載された。これは東北地方で最初の登録で、東日本大震災からの復興を後押しする効果が期待されている。

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「迷宮都市」へのフランス保護領統治の影響(モロッコ)

2012年07月02日

フェス(英語ではフェズ)は、広大な旧市街を持つ都市である。総面積280haの中に、現在約10万人が居住している。中心的な通りに沿って歩いていくと、スークと呼ばれる商店街が並んでいる。スークでは、金物細工、革製品、陶器など、通りごとに販売しているものが決まっており、それぞれの商品を作る職人の作業も見られることが多い。皮なめし・染色の作業場は、フェス旧市街地の観光名所のひとつとなっている。
そのように楽しみながら歩いていると、ふと完全な住宅地に紛れ込んでしまい、慌てることもある。地図を見ても目印らしい目印もなく、どこにいるか全くわからない。立ち往生した頃に、地元の子どもたちがガイド役を買って出てくる。彼らについて、小路をすり抜け、家々のひさしをくぐって、またいつの間にか観光地に戻っている。まさに迷宮都市であり、そのような経験に世界中の人々がひきつけられてきた。

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皮なめしの作業場