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2009年11月 恵泉だよりvol.6

個性を評価する難しさ -「AOの青田買い」を考える-

文部科学省が来年度からのAO(アドミッション・オフィス)入試制度見直しを通達した。求められている改善点は、主に2つ。まず、入学願書の受付を8月以降にすること。これは受験生確保を焦るあまり、1学期(前期)中にAO入試をする大学すら現れ、高校の学習に支障が出るとの判断からだ。そしてもうひとつ、面接以外に受験生の学力把握措置(たとえば筆記等の試験やセンター入試成績などを参考にする)を加えること。

恵泉は今までもAO入試募集が秋からだったし、受験生には模擬授業を受講させてレポートを書かせる課題を設けて、面接以外の学力考査も行っていたので、今回の制度変更の影響はない。むしろ恵泉が「AOかくあるべし」と思って実施してきたかたちが、図らずも文科省のそれを先取りしていたことにもなった。

しかし、そんな恵泉でも、AO入試がその可能性を十分に発揮できているのか、入試担当者は日々頭を悩ませている。高校の教育現場はAO入試についてどう評価しているのかも気になるところだ。そこで、10月初頭に杉並学院高校の進路指導部長である近藤三郎先生をお迎えし、AO入試について意見交換する機会を持った。今回の恵泉だよりは、その時のやりとりを報告してみたい。

杉並学院中学高校教諭・進路指導部長 近藤 三郎 先生

杉並学院中学高校教諭・進路指導部長
近藤 三郎 先生

内に秘められて表に出ていない個性をいかに見抜くか。
本学でこそ伸びる学生に入学と学習の機会を与えたい。

  • 人間社会学部教授・入試部長 坂井 誠人間社会学部教授・入試部長
    坂井 誠
  • 人間社会学部准教授・入試委員 樋口幸男人間社会学部准教授・入試委員
    樋口幸男
  • 人文学部専任助教・入試委員 村岡有香人文学部専任助教・入試委員
    村岡有香

坂井 最初に杉並学院高校のAO受験状況をご説明ください。

近藤 うちの高校でも7年前から対応し始めましたが、初年度は全体の7. 6%の生徒がAOを利用しました。三年目に10%台になり、昨年は27%の生徒がAOで受験しています。

司会 最初に導入された時には、戸惑いもあったのではないでしょうか。

近藤 当初は評点平均が2点台だったり、欠席が多かった生徒でも合格していました。それを知られてしまうと、後輩たちに悪い影響がでないかは心配でしたね。

坂井 AOが入学者対策に不可欠になっているのは、私学一般の傾向。推薦とAOでなるだけ多くの入学者を確保し、一般入試は倍率を上げて偏差値アップに繋げるというのが多くの私学の偽らざる実態です。

近藤 でも、恵泉さんはちゃんとやってくれていると思います。三年前に落としてくれた。

坂井 ご期待にそえず申し訳ありません。

近藤 いや、ありがたいと思っています。きちんと評価して貰えることが生徒にとっては何よりなのですから。実際、入学しても辞めてしまうケースが少なくない。

樋口 辞めてしまうのは、大学のことを理解せずに入学してしまった結果でしょう。うちのAO面接では、やりたいことが受験生に確かにあって、その夢が実現できる場所としてうちを選んでくれているのか、結構こだわって聞いています。

近藤 どんどん聞き出して、生徒の意識を高めてやって欲しいですね。

坂井 面接中に考え込んでしまう受験生もいますが、それは減点の対象にはなりません。自分の未来に真剣に思いを巡らせているわけで、その姿勢がむしろ心を打ちます。

村岡 ゆとり教育と一緒で、AOの導入には受験勉強から解放して子供の個性を存分に伸ばさせる趣旨があったと思いますが、個性についてはどうですか?

近藤 個性の重要さが指摘されて久しいですが、ここ3~4年は生徒の質が変わってきています。同窓会で昔の生徒に再会すると、差が歴然としていますね。ゆとり教育が個性を伸ばせたかというと、残念ながら逆だったのでは・・・・・。

坂井 でも、個性を示せずに内に秘めている生徒さんもいるのでは。たとえばうちはコミュニティ・サービス・ラーニング(=CSL)といって、地域でボランティア活動をしながら学ぶカリキュラムがありますから、ひとのために働くことに生き甲斐を感じるような学生は、自分の居場所をみつけやすいでしょう。

樋口 植物が好きだという生徒を以前に面接したことがあって、「あなたが知っている植物の名前をいってごらん」と聞きました。すると、私のような専門家は知っていても普通の高校生はおそらく知らないだろう名前が、次々に出てきた。こういう生徒なら、うちにくれば間違いなく伸びてくれると思い、合格にしました。

坂井 AOで入って、とても優秀な成績だったので、飛び級制度を利用して三年半で卒業した学生もいましたよ。

近藤 中学では伸び悩んでいた生徒が、うちの高校に来てから水があったのか、大きく伸びることがあります。大学でもそういうことがあるといいですね。AOは生徒と大学が相性を確かめるお見合いのようなものだとよく説明します。

オープンキャンパスでは上級生が寸劇でAOを紹介
課題だけでなく、合格者を大学に迎えて入学前指導を

AO入試の再現ドラマ村岡 恵泉ではオープンキャンパスで、AO入試の仕組みを説明する寸劇を大学生に演じさせます。面接にあまり緊張して臨むようだと可哀想なので、面白おかしく、わかりやすくAOを紹介しています。あとAO入試を年に4回行いますが、それはどうでしょう。

近藤 何かの拍子に失敗する生徒もいるので、挑戦の機会が多くあるといいし、一回の面接時間も長い方がありがたい。ご負担を多くするようで恐縮ですが。

坂井 うちは今でも模擬授業のレポートを書いてもらっていますが、他大学も文科省の指導に応じて学力試験を取り入れてくるでしょう。これはどうですか?

近藤 内容がどうなるか分からないのでお答えしにくいですが、指導上は学力試験もして欲しいと思います。高校の勉強への動機づけができますから。しかし一方で、AOが普通の試験になって欲しくない気持ちもあります。たとえば従来の英語の試験をAOに入れるのでは、せっかくのAOの良さがなくなってしまうのではないかと。どうも矛盾した心境になりますね。

村岡 私は高校教員の経験があるので心配になってしまうのですが、8月以前は論外とはいえ、秋口に進路が決まってしまうのでも早過ぎませんか?授業がやりにくいのでは・・・・。

近藤 確かに指導は難しくなりますね。クラスの中で浮いてしまうでしょう。

坂井 その意味では、過剰な青田買いを規制した今回の改革は妥当でしょう。しかし、早く結果が出がちな傾向は依然としてあるわけで、合格者に大学から出す課題が大事だと思います。

近藤 締め切りを設定してどんどんやらせて欲しい。大学に入って何をするか、将来の学習計画を立てさせるような課題もいいですね。

樋口 教員と会ってみたり、模擬講義を受けてもらったり、勉強ばかりではつらいから茶話会をしたり、入学が楽しみになるような仕掛けを色々作りたいと思っています。きちんと出席を取りますから、大学に生徒さんを一日あずけてくださいとお願いしたい(笑)。

近藤 何か一緒にやれると良いですね。でもあまりお邪魔するようでは・・・・・。

坂井 いえいえ、大学の方は全くウェルカムですよ。

意見交換を終えて ──

これは入試ではなく、企業の採用担当者から聴いた話だが、履歴書を伏せて面接だけで採用したら、逆に東大生ばかりになってしまって困ったことがあったそうだ。学力だけでなく、当意即妙の印象や話ぶり等々、企業の採用時に評価されるあらゆる「良さ」がひとつの大学で育まれる範囲に収まってしまう。これは東大の教育を讃えるよりも、採用する側の価値観が痩せて、一つの枠の中でしか人材の「良さ」を計れなくなってしまった結果だと考えるべきではないか。

一様な尺度で集められた人材は、均質な集団を形成する。均質な集団は平時には強いが、乱世に弱い。これからの日本は未曾有の乱世を迎えることが予想される。そんな将来の社会を支える多様な「良さ」を持った学生を大学が受け入れるための制度として、AO入試は改めてその必要性が高まっているはずだ。大学を様々な個性の持ち主が互いに切磋琢磨する場にするために、AOという入試制度を今後も鍛えつつ生かしてゆきたい。恵泉はそう考えている。

文責:日本語日本文化学科 教授 武田 徹

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